ERP+バブリッククラウドの可能性 ケンコーコムが体験を語る導入事例

国内で初めてSAP ERPをAmazon Web Servicesに構築したケンコーコム。その構築の様子や運用してみてのメリットなどが「ガートナー エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャ サミット」で紹介された。

» 2013年03月05日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 これまで情報系システムの分野で広がってきた企業のクラウド活用。今後は基幹系システムでの利用が注目される。ガートナー ジャパンが2月28日と3月1日に開催したガートナー エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャ サミット 2013」では国内で初めてSAP ERPをAmazon Web Services(AWS)に構築したケンコーコムが、その様子や運用での現状などを発表した。

ケンコーコム 取締役 IT本部長の新井達也氏

 健康関連商材のオンライン販売を主力とする同社は、2012年8月に「SAP ERP+AWS」による基幹システムの本番稼働を開始した。取締役 IT本部長の新井達也氏によると、その直接的なきっかけは、2011年の東日本大震災による事業継続性の強化だったが、急ピッチで拡大する同社のビジネス環境に柔軟に対応できるシステムの実現も必要とされていた。

 「当社ではECサイトでのビジネスに加え、パートナー商材の出荷も手掛けている。取り扱う商材は創業時から増える一方で、現在は20万種以上になる。これらの商材の注文から発送までを効率化する必要があった」

 創業時から増築を重ねてきたシステムは肥大化、分断化して新鮮な情報の共有が難しくなっていた。また、上場企業として求められる内部統制の実現、国際会計基準(IFRS)への対応も視野に入れて新システムを構築する必要があった。この基盤として選択したのが、クラウドサービスだった。

SAP+AWSが前提

 構築プロジェクトは2011年10月にスタートした。新井氏によれば、新システムの環境は最初からAWSとSAPの組み合わせを前提にしていたという。AWSについては、SAPの導入以前から50台近くの業務システムのサーバをAWSで稼働させており、そのノウハウが既にあった。同時期にAWSが東京リージョンからのサービスを開始したことも決めてになった。SAP ERPを採用したのは、国内外で採用実績とその導入に長けたベンダーが多いことだった。

 だが、それでもAWSにSAP ERPを構築したケースは国内に無く、ベンダー選定では「インフラは当社が自前で取り組み、パートナーにはアプリケーションレイヤに注力してもらうこと、そして、小規模な当社のニーズに応えてくれること」が条件になった。最終的に選定したのは、NTTデータグローバルソリューションズのSAP Business ALL-in-One「専門商社向けモデル」である。

 約10カ月のプロジェクト期間のうち、特にクラウドサービスのメリットを感じたのがテスト工程だったという。ハードウェア調達などの時間やコストが不要で、コンソールで一度作成したインスタンスをコピーすれば、すぐにテストを実施できる。テストと本番環境への移行も同時並行で進められ、プロジェクト期間の短縮につながった。

 AWSで稼働するSAP ERPでは在庫/購買管理、財務会計、管理会計のモジュールを採用している。これらのモジュールでカバーされないものはノンコアとして、オンプレミスに残した。「創業以来のノウハウが蓄積しているシステムはパッケージに置き換え無い方がよいと判断した」という。AWSとオンプレミスとはAPIを介して連携する。インターネット回線を利用することでの遅延などのデメリットは、ファイル圧縮技術などの利用によって、それほど感じていないとのことだ。

標準化と慣れ

 SAP ERP+AWSのシステムが稼働して半年が経過したが、そのメリットはコスト削減とシステムの柔軟性の向上だという。SAP ERP+AWSを構築する以前にAWSへ移行したシステムだけでも、1カ月の運用コストは約600万円から300万円に半減。SAP ERP+AWSでは5年間のTCOを約65%削減できる見込みだという。

 また新井氏は、「AWSの仕組みが標準化されていることも大きい」とも話す。AWS特有の環境を使いこなすには、このサービスの専門家に頼る部分もあるが、ユーザー事例が増えれば増えるほどノウハウが共有化されていき、そのノウハウを活用していける。

 一方で、バックアップ方法が従来と異なったり、手軽にインスタンスを増やし過ぎると、かえってコスト高になるといった新たな気付きも得られたという。新井氏は、「標準化されていることでのスピード感やコストメリットがある。そのためには新サービスを使いこなしていく努力も必要になる。人的にもコスト的にも余裕の少ない中小規模の企業にとってクラウドは有効な手段になるだろう」と話している。

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