「インフラ×IT」で中東諸国の課題解決に挑む日立目指すは社会のイノベーション(3/4 ページ)

» 2014年05月08日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 「反響は大きかった」と駒形氏が振り返る背景には、日本人が考える以上に中東ではITが浸透しているという事実がある。特にUAEやカタールなどは比較的人口規模が小さく、また国民の生活パターンも日本のように多様ではなくシンプルだ。つまり、実験的な取り組みを行う土壌がある。

 例えば駒形氏はドバイに銀行口座を持っているが、クレジットカードを利用すると、数秒後には「どのカードでいくら決済され、いつ口座から引き落とされるか」がSMSでプッシュ通知されるという。身に覚えのないカード利用などをチェックできるわけだ。

 駒形氏は運転免許証の取得についてのエピソードも紹介してくれた。実は今回、同氏にとって2度目の中東駐在なのだが、生活には車が必要である。しかし同地で免許証を取得したのは13年前であるため、視力を検査することになった。

 市内の眼鏡店で検査を行った駒形氏は、その結果を日本で言う陸運局に持参し、免許証の再発行を申請するつもりだったという。

 だが結局、駒形氏は陸運局に足を運ぶ必要はなかった。なぜなら、眼鏡店の端末が免許証取得者のデータベースに接続されており、申請はその場で完了したからだ。ほどなくして、免許証は駒形氏の住まいに配送されてきたという。「ある意味では日本以上に行政のIT化が進んでいる。生活の中に入り込んでいる」と駒形氏は話す。

 中東にはこのようなバックボーンがあるため、インフラとITの掛け合わせでマーケットを拡大する余地があるというのが、駒形氏の読みだ。しかし、その道は決して平たんではないという。

 なぜか? 「先行して欧米企業が進出しているからだ」と駒形氏は指摘する。言うまでもなく中東は、歴史的・地理的にヨーロッパと近い。加えて欧米系企業のコンサルが、インフラ案件の発注元となる中東各国の行政機関に上流から入り込んでおり、RFP(要求仕様書)の作成から関わっている。彼らの土俵の上で勝負するのは、いかにも分が悪い。

 こういった状況を打破するカギは、ローカルパートナーの活用にあるようだ。前提として、現地では決して欧米系企業の品質に満足しているわけではないということが挙げられる。たとえ要求仕様を満たしていても、既存の製品をそのままデプロイし「売ったら終わり」のビジネスでは産業のすそ野が広がらず、人口増加を吸収するための雇用創出にもつながらない。

 例えば日立は、サウジアラビアに「Al-Essa(アレッサ)社」という有力なパートナーを有している。同地域で需要の高い洗濯機や冷蔵庫、そしてエアコンといった家電分野のパートナーだが、日立との関係は40年以上にものぼる。

リヤド市内にあるアレッサのショールームには、日立の家電製品が多く展示されている。サウジアラビア国内では、日立家電は高付加価値なプレミアムラインとして認知されている。なお中東では「冷蔵庫/洗濯機/エアコン」が家電三種の神器とされているという

 アレッサは単に日立の家電製品を販売するだけでなく、保守や点検といったサービス、そしてそれらを担う技術者の育成も独自に行っている。サウジアラビア国内には10カ所のショールームを有し、独自のマーケティング活動も展開。現地のニーズに基づいた要求を日立に伝えることで製品仕様の改善にもつなげており、日立を「家電におけるトップブランド」に育て上げたサウジアラビアにおける立役者だ。

 駒形氏は、社会イノベーション事業でもこのようなアプローチをとる考えだ。受け皿となる現地企業には積極的な技術移転を行い「日立クオリティー」の事業を中東で展開できるビジネスパートナーを生み出す。そもそも製品や運用人員などのすべてを日本から運んでいたら、時間やコスト的にも見合わない。特にサウジアラビアに関しては、同国がWTOに加盟したこともあり、ビジネスのマインドが随分と変わったという。

 「単なる代理店として口利きではなく 、事業を組み立てられるプロジェクトパートナーが見出せる環境になってきた」と駒形氏。あわせて日立としてアラビック スピーキング スタッフを雇用し、彼らを中心に現地ビジネスを回せるよう、育成も図るという。

 もう一つ、日立がマーケットで勝ち抜くためのポイントが、インフラ事業に「IT」という価値を加える社会イノベーション事業のアプローチだ。

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