既に述べたとおり、以前からある純インフラのビジネスは、仕様や金額が厳密に定められてしまっているため、案件によっては「手も足も出ないこともある」(駒形氏)という。しかしITを絡めれば、仕様外の提案も可能になるし、付加価値を出せる。つまり「要求仕様のなかに日本企業にとって有利な条件を盛り込む余地がある」ということだ。
「インフラ×IT」の取り組みを本格化したのは2012年からだという。具体的な成果はこれからだが「既に100案件を超えるトライアンドエラーを実施している。(社会イノベーションの)事業化に向けたシーズは見出しつつある」と駒形氏は話す。
駒形氏が見出したアプローチはもう1つある。それは、研究・教育機関と共同研究を進めることで、自然にインフラ政策の上流工程へ入り込むかたちだ。
湾岸諸国で最大の国土・人口を有するサウジアラビアだが、国家としての歴史は100年余り。特に理工系の大学は、ここ数十年でようやく整備されつつある状況である。
共同研究の成果は、その教育機関自体の成果となる。有力大学OBの多くは、その成果を手に国の機関に入るため、社会イノベーション関連のソリューションがサウジアラビアの国家戦略に取り込まれるかたちだ。「彼らは日立の技術を自分たちの技術だと認識してくれる。我々だけではなく、現地にもメリットがなければ」と駒形氏は話す。
事業として花開くまでには5年、10年という期間が必要だが「今、着手するからこそ未来の結果につながる」(駒形氏)という。象徴的な「現地化」施策だと言えよう。
日立のコーポレートサイトでは、社会イノベーション事業について「明日を創る、未来を変える」と謳われている。中東諸国は、豊富なオイルを有するがゆえに、足元の経済問題を抱えてはいない。しかし永遠にこの状況が続くわけではない。資源には限りがあるからだ。
資源を有効に活用し続け、そしていずれ失われたとしても、安定した成熟国家として存続する――そういった未来のために、日本から遠く離れた中東で、日立の挑戦は続く。
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