ビッグデータマーケティングの未来が中延商店街にあったIBM Software Xcite Spring 2014 Report

5月21日に開催された「IBM Software Xcite Spring 2014」の事例講演の中から、ビックデータ時代のマーケティングの進化の行方について語った講演を紹介する。

» 2014年05月30日 13時48分 公開
[菊地原博,ITmedia]

 ビッグデータの活用が本格化する時代を迎えている。そうした中で、ビッグデータをマーケティングの観点から捉え、マーケティングの進化に生かすことが求められている。ビッグデータ時代のマーケティングはどうあるべきなのか。講演ではビッグデータの固有性やそれに伴う変化、マーケティングの進化の中でのビッグデータの価値などが具体例も交えて語られた。

ビッグデータで売り手と買い手のマッチング力が強まり、一体化が進む

上原氏写真 明治大学専門職大学院 教授 公益財団法人流通経済研究所 理事長 上原征彦氏

 ビッグデータを生かす方法としては、統計学的アプローチと戦略的アプローチがある。

 両者は密接に結びついているが、どう経営に役立てるかという観点で考えるのが戦略的アプローチだ。

 ビッグデータはサンプル数が膨大で、分析時に母集団を確定できず、データの変数も多い。これらを高速処理すると、分析・決定・処理が同期化する。現在の組織では分析から、決定、行動まで時間がかかるが、それではビッグデータを使うことができない。意思決定を即座に行うことが求められるのは現場であり、現場でこそビッグデータは役に立つことになる。これがビッグデータの固有性である。

「ビッグデータによって、何が変わるのでしょうか。通常、PDCAサイクルは時間がかかりますが、それが瞬時化されます。そうすると、分析して、会合し、行動するのではなく、分析と会合、行動が一体になります。それは顧客も短時間で分析、決定、行動に参加できることを意味し、売り手と買い手のマッチング力を強めつつ、一体化を進めることができます(図1)。ここにマーケティングにおけるビッグデータの優位性があります」と明治大学専門職大学院の上原征彦氏は語る。

ビッグデータでPDCAサイクルは瞬時化する 図1:ビッグデータでPDCAサイクルは瞬時化する

 マーケティングとは、元来市場に関係性を貫き通すことを言う。市場は市場メカニズムで動いているが、企業が全てを市場メカニズムに委ねてしまうと、市場価格が上がれば高く売れるし、下がれば安くなってしまい、自律性がなくなる。マーケティングの目的は市場メカニズムから独立して、価格設定をすることにある。広告を打って、顧客を惹き付けるのは市場メカニズムに対して自律性を保持するために、顧客と関係を持つことだ。

 今までのマーケティングは「売るための手段としての関係性」だった。マーケティングは1860年代にアメリカで生まれたが、当初は作った製品を消費者に訴求して、売るためのプロモーション型マーケティングだった。それが20世紀に入り、消費者のニーズを先取りして、売れる製品を作る製品計画型マーケティングとなり、積極的に顧客と接触しようという動きが出てきて、現在まで続いてきている。

関係が売り上げを作る「目的としての関係性」へと進化するマーケティング

 それに対して、これからのマーケティングは、関係が売りを作る「目的としての関係性」だ。それは需要創造を目的とする関係性と協働型マーケティングの展開の2つに分けられる。

 需要創造を目的とする関係構築の例が品川区の中延商店街の取り組みだ。

 中延商店街では「空き店舗ができたときにどうすればよいか?」を来街者に聞こうと、「街のコンシェルジェ」を作った。来街者は皆「店は要らない」と言い、小さな子どもがいるお母さんは「幼稚園の送りの時の留守番が欲しい」、お年寄りは「蛍光灯を付け替えてくれる人が欲しい」など、さまざまな要望が寄せられた。そこでお客さんの中から、仕事をやってくれる人を見付け、地域通貨を作って、それで仕事を頼み合えるようにした。それがうまく行き、「街のコンシェルジェ」は大きな需要を作り出した。その中で、お客さんから、商店街の中に欲しい施設の要望が出てくるようになった。まさに関係が売り上げを作ったのだ。

「『街のコンシェルジェ』での売り手と買い手の引き合わせ作業はとても大変で、人手では限界があるのです。それを効率的に行うには、『誰が何をできて、何を必要としているか』についてのデータ集積が必要です。そこでポイントになるのがビッグデータです。商店街の活性化では、お客さまとの関係性を深めるようなビッグデータの集積が基盤になるかもしれません」(上原氏)。

 一方、協働型マーケティングの展開例が消費者がPC画面を介して、デザイナーと話し合ってスーツを作るようなケースだ。そこでは売り手と買い手がデータを共有して、さまざまなデータを介して協働作業をする。そのためには膨大な量のデータが必要になると共に、デザイナーと消費者がやり取りするので、現場が権限を持って材料調達ができなければ意味がない。

企業と大量の情報を持つ顧客の激突で生まれる創発マーケティング

 そうした中で、ネットワーク経営が台頭してくる。

 日本の流通業では製配販が分かれているが、その統合が進むと、在庫情報と実在庫のギャップが分かるようになり、正確な在庫予測が可能になる。そこには膨大な量のデータが集積されるので、ビッグデータの分析が必要になる。

 また、コンビニエンスストアの生活密着化、ヘルスケアビジネスの台頭、オムニチャネルの展開など業界を連ねたビジネスの展開も進む。そうした展開でもビッグデータが必要になる。そこで重要なのがネットワークの価値はデータ集積に依存するということだ。データを集積すればするほど、ネットワークの価値が高まっていく。そこにビッグデータの意味がある。

「製品とは消費・使用できるような状態になったものを言います。その価値作りには顧客も参加するわけで、顧客は『お客さま』ではなく、協働者です。そして、マーケティングは企業の専門性とインターネットを通して多くの情報を持つようになった顧客との激突になります。ビッグデータのような形でデータ量が増え、激突があればあるほど、新しい発見がなされ、創発マーケティングの展開が可能になるのです」と上原氏は最後に述べて講演を終えた。

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