2015年新春インタビュー

Windowsも変革し「顧客価値の最大化」前面に──日本マイクロソフト・樋口社長2015年 新春インタビュー特集

「プロダクティビティ&プラットフォームカンパニー」へ。ナデラ新CEOのもと、新生マイクロソフトとして挑んだ2014年は「創業以来最大の変革」だった。その変革は、2015年、そして2020年に向けてどんな顧客価値になるのか。日本マイクロソフトの樋口泰行社長に聞いた。

» 2015年01月09日 08時00分 公開
[岩城俊介,ITmedia]
photo 日本マイクロソフト 取締役代表執行役社長の樋口泰行氏

―― 自社のビジネスを振り返り、2014年はどのような1年でしたか。

樋口氏 Windows XPのサポート終了、Windowsタブレットの躍進、クラウド3兄弟(Azure、Office 365、Dynamics CRM Online)の強力な推進など、「モバイルファースト、クラウドファースト」をテーマに“新生マイクロソフト”として事業を進めてきました。2014年は創業以来最大ともいえる「変革」の1年でした。

 特に大きかったのは、2014年2月に本社3代目のCEOにサティア・ナデラが就任したことです。就任してもうすぐ1年ですが、現実をふまえた戦略を打ち出し、それを加速させています。米国中心という考え方ではなくグローバルにものごとを考えられる、意思決定も早いし、人柄もよく、とてもバランス感が優れているリーダーです。社員も「ナデラが判断したなら、たぶん長期的には正しい」と安心感があります。マイクロソフトは幅広い製品やサービスを提供していますが、ナデラCEO就任により、全体が連携する1つの大きな軸ができたと思います。

 お客様やパートナー様に対してもそうです。やはり直感的に分かっていただけるのでしょうね。市場や時代の潮流、お客様のニーズに合わせた考え方、製品やサービスを使っていただく際に、Windowsだけにこだわらないマルチプラットフォームの柔軟な考え方もそうです。「お客様のメリットを考えた時に、企業はどうあるべきか」の部分を特に賛同していただけています。

 ビジネスの観点では、2014年4月のWindows XPサポート終了にともない、6月第1週あたりまで機器のリプレースを中心にIT業界全体が活況を呈しました。それ以降は「モバイルデバイスとクラウド」にグッと注力する戦略をマイクロソフト全体で進めてきました。日本データセンターの設置Surface Pro 3の投入日本向けOffice Premiumマルチプラットフォーム対応など、モバイルとクラウド対応に向けて会社全体が変革しました。これまでのやり方と、もうだいぶ違います。セールスプロモーションにしても、売上の考え方にしても「内なる改革」は現在もどんどん進めています。

―― 創業以来最大の変革だったのですね。

樋口氏 ビル・ゲイツ(初代CEO)とスティーブ・バルマー(2代目CEO)は、創業者と創業メンバーですから、「Windows」を自分の子どものようにかわいがっていました。それを部分的とはいえ無償化(モバイル端末向けのWindows 8.1 with Bing)したりですとか、あるいはOfficeという大変大きな収益の柱を、競合他社の製品向けに対応(Office for iPad/Androidなど)するなどは、今だから言いますが、あまり考えられないことでした。変革、マイクロソフトが示すビジョンという意味で、ナデラ(現CEO)の存在はやはり大きいと思います。

―― 推し進めているクラウド事業に関して、IBMやSalesforce.com、Dropboxなど、これまでの“競合”と協業する動きも目立ちました。これもナデラCEO効果だったのでしょうか。

樋口氏 クラウドに関しては、バルマー(前CEO)の時代からLinuxであろうが、SAPやOracleであろうが、お客様が使ういろいろなものにプラットフォームとして対応しなければならないという考えはありました。それを直接進めていたのが当時のクラウド担当だったナデラでした。ナデラがCEOになって、いっそう加速したということになりますね。

―― 御社が2013年に掲げていた「デバイス&サービスカンパニー」と、ナデラCEO体制での「モバイルファースト、クラウドファースト」や「プロダクティビティ&プラットフォームカンパニー」の違いを教えて下さい。

樋口氏 ほぼ同じ意味になりますが、ナデラ流の言い方として少し変えたということになりますか。

 従来のオンプレミス型、サーバ/クライアント型のソフトウェアビジネスは現在も多くを占めています。ただ、やはり全体のトレンドとお客様のニーズは「PC中心からモバイルデバイスに」「オンプレミスからクラウドに」です。そこを第一に考えた会社にならなければならないと、ナデラが受け継いで表現方法を工夫したということになります。この方針は2015年も変わりません。

 マイクロソフトは、さまざまな業種・業態ごとのバーティカルな(垂直統合型の)ソリューション/アプリケーションまで踏み込むのではなく、全体のプラットフォームを提供していく会社です。だから、プロダクティビティ(生産性の向上)にこだわってきました。昔も今も、ここは「コアな価値」です。

 プロダクティビティとは、ビジネスだけでなく、個人利用も、学生さんなどもすべて含みます。個人も法人も、オンとオフも、両方支えられるということですね。

―― 2014年、特に成果があったこと、あるいは苦労したことはありますか。

樋口氏 正直に申しましょう。モバイルファースト、クラウドファーストを掲げつつ、そこは「競合に出遅れていた」のを否定しません。これらの分野は特に進化が著しい。少し遅れるとキャッチアップが大変です。Surfaceにおいても、クラウドにおいても、製品やサービスの技術の進展はさることながら、パートナー様とのエコシステムの確立やお客様の認知度も含めて、ハンディキャップを背負っていました。そこからのキャッチアップは、まっさらな市場を開拓するより困難なことで、まさに逆風でした。

 ただ、現在のモバイル、クラウドの状況においては「マイクロソフトは、完全にキャッチアップした」と手応えがあります。「さらにこれから勢いが付く」と思えるようになったことが2014年の成果の1つです。

 Office 365についても、ありがたいことに特に大手企業について「ほぼ365指名」な状況ですし、Amazon Web Servicesに対するAzureも「確実に土俵に乗った状況」と思っています。もともと法人向けのオンプレミス型ビジネスをやってきたこともあり、営業体制、サポート体制、そして信頼感、このあたりはこれまで培ってきた基礎があります。「やはりマイクロソフトですね」こう評価していただくお客様からの信頼感の高まりを感じています。

―― PaaS/IaaSについて、改めてAzureはどこが差別化ポイントになるのでしょう。

樋口氏 クラウド基盤を導入するにあたり、(プライベートクラウドやオンプレ環境の刷新と比べ)パブリッククラウドは確実にコストの優位性があります。そこを入り口にされるお客様は多いです。また、マイクロソフトのクラウドOSのビジョンに沿って、今はひとまずオンプレだけど、いつでもクラウドへ移せるよう構築したいと考えるお客様も多いです。

 そういう意味で「クラウドだけ」ではなく、オンプレ環境も含めてハイブリッドに構築できる、移行できる、連携できるというメリットをとても評価をいただいています。また、日本のお客様には日本のデータセンターよりサービスを提供することも大きな武器です。

 そして、「プラットフォームとしての信頼性」や「会社としての信頼性」も強いと自信がある部分です。日本マイクロソフトとしては、お客様の環境で何かあった時に、これからも「顔が見える日本法人の会社」でありたいです。

―― 2015年の事業目標は。

樋口氏 「クラウドとデバイスのキャッチアップ」。ここは入り口まで来ましたので、これからグッと伸ばします。ナデラの主導で、OSでも一元化、統一化する動きとともに、マルチプラットフォーム対応で、どうマイクロソフトは対応していくかの声に応えます。

 これまでのWindows中心の動きを変革し、次世代に飛躍するためのベースになる部分をきちんと整備してきました。それは2015年にリリース予定のWindows 10に生かされます。PaaS/IaaSも、SaaSもそうです。自社製品やサービスのあらゆるものが飛躍に向けて整備を済ませつつあります。ここは極めてポテンシャルがあると自負します。

 2020年のオリンピック・パラリンピック東京開催に向け、日本の成長をITベンダーの側面から貢献していきたい。2015年はその想いと意思をさらに強く持ち、お客様への「コアな価値」の提供、さらには社会に貢献できる会社となるべく邁進します。

―― 最後に少し先のこと、2020年に向けて企業は何を考えるべきか、アドバイスを頂けますか。

樋口氏 2020年のオリンピック・パラリンピック東京開催に向けて、クラウドやスマートデバイスを活用したさまざま取り組みや新サービスが続々と検討、研究されています。特にクラウドは、社会インフラを支えるものとして脚光を浴びていることでしょう。デバイスが爆発的に増え、クラウドインフラの環境も普通に広がってくる。例えば、「データカルチャー」「データ分析」が重要になってくると思います。

 デジタル化されたデータ、これはこれまでデジタル化されていなかったいアナログデータも含みます。(IoTと呼ばれるように)末端のセンサーも含めてデジタル化しネットワークとつながってデータがやりとりされるようになる中で、これをどういうふうに知見としてためいくか。ビッグデータ解析、マシンラーニング分野は期待が集まっています。

 意味のあるデータをきちんと解析する仕組みは、これから重要な意味を持ってきます。日本にはカイゼン活動とか、巧みの技などがあります。これが知見として共有できればいかがでしょう。ビッグデータ解析の分野は日本人のメンタリティに合っている気がします。こういった新しいところへ盛んにチャレンジしてほしいですね。

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(撮影:市原達也)

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