真の「医療×IT」を実現するために、求められる電子カルテシステムとは?京大病院の“情シス”に聞く(後編)(1/2 ページ)

日本で電子カルテが始まって約15年。政府が掲げた目標ほどには電子カルテシステムは普及していない現状がある。その理由を京大病院の“情シス”、黒田教授に教えてもらった。

» 2015年02月04日 08時00分 公開
[池田憲弘,ITmedia]
photo 京都大学医学部附属病院 黒田知宏教授

 京都大学医学部附属病院のシステム管理者として、クラウドプリントシステムの導入を進めた黒田知宏教授。2016年には病院の電子カルテシステムの刷新を予定しているが、カルテの電子化によるメリットをしっかりと享受できるシステムにすることが目標だという。

 カルテの電子化が認められたのは1999年のことで、それまでカルテは紙しか認められていなかった。カルテは5年間の保存が義務づけられた、患者の治療における法的な公式文書であるため、電子化にあたっては法整備が必要だったのだ。当時の厚生省が“診療録(カルテ)の電子媒体による保存を認める”という通達を発表し、法的な効力を持つようになった。

 「電子カルテは生まれて15年程度と歴史は浅い。京大病院では2005年にシステムを導入したのでまだ10年ですし、利用する患者さんにとってはここ数年の出来事でしょう。今はまだ発展途上の段階にあると言えます。現状の電子カルテシステムは、今まで紙でやっていた作業を機械で置き換えているだけ。データを機械に入れても『それって本当に使いやすいの?』という状態になっている」と黒田さんは話す。

電子カルテの“弱点”

 例えば、患者の体温を測る場面で、体温計で測定した結果を看護師が手にメモをして、ナースステーションに戻ってからExcelのような画面に転記するという作業を行うケースもあるという。

 「これは単に非効率だというだけの話ではありません。紙ならその場で記録するのでミスが起きにくいですが、Excelのような表形式の画面に転記すると1マスずれてしまったといったミスが起こることもあります。例えばこれが体重だったらどうでしょう。投薬の量は体重を元に決めるので、投薬量が変化してしまう。副作用がある薬などであれば大変なことになります。一般論として、人間はどんなに気をつけていてもミスをするものですが、特に医療現場ではこれがついうっかりではすまないのです」(黒田さん)

 このように電子化を進めた結果、よけいな手間がかかったり、ミスが増えてしまったりするケースもあったという。なぜこのようなことが起きるかというと、技術面と制度面のそれぞれに問題があると黒田さんは指摘する。

 「まず技術面では、本当にユーザーが使いやすいシステムになっているかということです。先ほどの例で言うと体温計とシステムが連動し、そのまま体温計からボタン1つでデータが送信されて電子カルテに入力されれば転記せずに済みます。『間違いをなくし、手間を減らす』ということを根本的に考えたシステムを考えなければなりません」(黒田さん)

photo 電子カルテシステムはまだまだ改良の余地があるという(出典:富士通)

 一方、法制度の面では、ルールが現実に即していないことが効率的な運用を阻んでいる側面があるという。

 「本来、業務を電子化すれば働き方が変わり、カルテの役割も姿も変わるはず。しかし法律は紙ベースだったころの運用を前提としている上に、厳密すぎる電子情報の取り扱いに関する法律が加わって、面倒なことがたくさん起こってしまっています。例えば、処方せんには医師のハンコを押すことが義務付けられていますが、紙の処方せんならば三文判をポンと押せばよかった。特に印鑑の登録も必要ありません。しかし、電子化を試みた途端にあらかじめ印鑑登録をした電子印章以外は認められなくなってしまうのです。

 また、緊急対応時に医師が患者さんの治療に手を取られている場合、紙のカルテなら代理入力のようなことも簡単にできました。制度にいわゆる“遊び”の部分があったからです。しかし今の電子カルテのルールだと、代理入力をしてもらうことをあらかじめ指示しておかなければならない。緊急時にこれでは間に合いません。今定められている電子カルテの運用ルールは、ある意味“建前”そのもので融通が利かない部分があるんですよ。

 “本質”に戻ってちゃんと考えれば、いろいろなことが見えてくるはずです。そもそも電子化された処方せんに残さないといけない証跡は『ハンコ』なの? とか。そういうところから制度を考え直していく必要があると思うんです」(黒田さん)

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