県教育委員会が率先した教育ICT導入の好例 熊本県×Lyncの場合(2/2 ページ)

» 2015年03月17日 16時00分 公開
[ふじいりょうITmedia]
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環境教育や総合学習にも、さまざまなシーンで活用

 Lync Serverの導入には、教育委員会経由で各校へマニュアルを渡して各々へインストールなどを任せる手段で初期のIT導入コストを抑えた。特別な操作教育などを行わなかったが、迷うことなくスムーズに活用できているほど簡単だという。

photo 他校の児童と手軽に交流できる。人数の少ない学校・学級(過疎地区の学校)への学習対策としてとても有効という(出典:マイクロソフトWebサイト)

 上益城郡甲佐町の県立松橋西特別支援学校では少し離れた場所にある本校と分教室をつなぎ、週3回ある職員朝会で教職員の情報共有に役立てている。映像や音声がクリアに伝わり、画像とデータの双方を見ながら議事を進行できるため、教職員からは「離れた場所にいても内容がよく分かる」と評判は上々だ。

 「特別支援学校では、児童生徒の増加に学校の施設整備が追いついていない現状があり、分教室という形で小規模な施設を作って対応しています。職員だけでなく、本校と分教室をつないだ授業をやっていくことも今後考えています」(能登氏/同上)

 県北に位置する菊池市の七城小学校と県南の水俣市立袋小学校では、環境への取り組みとその課題を見つめ直す授業でLyncを利用し、各校で継続的に交流している。かつて水俣病公害を経験した熊本県ならではの、教育の一環として重要な取り組みだ。

 人吉市の市立人吉東小学校と市立東間小学校では、お互いに地域を紹介する総合的な学習の時間でLyncを活用する。制作した新聞や動画をお互いの反応を見ながら制作するという流れを取り入れた。他校(第3者)の感想を修正作業に生かすことで、内容の充実とともに、コミュニケーション能力を向上を図るのが狙いだ。両校は中学校で同じ学区になるため、仲間意識を高める役割も果たしたという。

遠隔地間の活用で、教職員の負担も軽減

 そして、特にLyncを深く活用しているのが、阿蘇郡高森町の町立高森中央小学校と町立高森東小学校だ。子ども議会の事前打ち合わせや、共同の行事である集団宿泊や修学旅行に向けての学習や交流授業、ALT(外国語指導助手)を招いた英語授業などで実践的に使われている。

photo 貴重な機会となるALTを招いた授業を、離れた2校で実施(出典:マイクロソフトWebサイト)

 「両校間は22キロメートル離れています。これまで、打ち合わせや交流授業を行うとすると手配したバスで大移動していました。2校の児童が直接会って話すことはとても重要ですが、移動時間やコストを考ると、何度も打ち合わせや交流授業を行うのは現実的ではありません。Lyncが入ってからは、それぞれの学校にいたままやり取りができるので、非常に便利になったと思います」(熊本県阿蘇郡高森町立高森中央小学校講師 野口貴至氏/同上)

 学校と地域や家庭との連携にもLyncは活用されている。

 合志市にある県立黒石原支援学校では、児童生徒の自宅と学校を接続し、送迎通学が困難な児童生徒が自宅で学習に参加できるよう手段を設けた。家にいながら学校の様子を確認できるようにし、友だちが呼びかけなどをすることで、体調回復などの状況に応じて授業に参加しやすくなることを目指しているという。県立教育センターと学校間でも、指導主事が実際の検証授業を教育センターにいながらLyncで参観し、検討会で児童生徒のワークシートや板書を見て成果、課題、改善点を具体的に検討するのに活用している。

 南北に広い熊本県では、全県立学校の教職員を集めた研修を行うとなると、その移動が困難な地域もある。そのため、県立の高校と特別支援学校の計72校をLyncで接続した教員研修や校長会も実施している。

photo 県立学校、教育委員会などをつないだ遠隔会議にも活用。災害時や緊急時など迅速な意思決定が必要なシーンにも活用できると期待されている(出典:マイクロソフトWebサイト)

 「全県立学校の教職員が集まるとなれば、車で3時間かけて移動しなければならない学校も出てきます。Lyncであれば、移動コストも含めた教職員の負担を軽減でき、かつ緊急対応を要する場合にもすぐに会議を開けることは大きなメリットです。使いやすいインタフェースだったので、当初想定したよりスムーズに研修を行えました。全県レベルで使えるという手応えを感じています。このような試みを続ければ、さまざまな使い方ができると考えているので、校務での活用にも挑戦していきたいと思っています」(能登氏/同上)

「Office 365」メールアドレスの導入拡大も

 情報モラルやスマートフォンの安全性などの学校の情報安全の取り組みをPowerPointのスライド資料で全県立学校の研修で紹介するといった資料の表示にもLyncは使われている。スマートフォンのルールに対する取り組みを調査でアンケート機能も活用されているという。

 文部科学省では、遠隔授業の制度化を盛り込んだ報告書案を大筋で了承していることもあり、2015年春にも高校での遠隔授業が本格的に始まることが予想される。今後は県内の小中学校や特別支援学校での活用例をもとに、県立高校の授業でもLyncの積極的な活用が考えられる。

 また、教育機関へのクラウド活用もこの事例を参考にいっそう進みそうだ。県教育委員会では市町村立学校教職員のメールシステムにクラウドサービスの「Office 365」を利用している。これを県立高校においても適用し、メールの管理を一元化する計画がある。Office 365に含まれるコミュニケーションツールとともに、県内教職員同士のコミュニケーションを活発化させるのも狙いだ。Lync Onlineなどのクラウドサービスを教育ライセンスで活用すれば、インフラの導入や維持コストの削減や、さらなるICT活用への予算の確保にもつながる。今後、教職員の情報共有と、いかに負担なくICTを使って学びやすい環境を作れるか、このあたりが導入効果を実感できる鍵となりそうだ。

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