情報共有で医療が変わる、“1患者1カルテ”を目指す静岡県の挑戦(1/3 ページ)

医師不足が叫ばれるなか、情報共有を軸とした業務効率化でサービスの質を向上させようとする取り組みが盛んだ。地域の医療機関が連携できるようにシステムを整備した静岡県。しかし、現場にITシステムが浸透するまでの道のりは平たんなものではなかった。

» 2015年05月22日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 日本の医療において「2025年問題」が大きなキーワードになっている。これは、2025年までに団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、日本各地で病気にかかったり、要介護の状態になったりする国民が急激に増加するという予測だ。

 高齢化が進むとともに医療の需要は増えていくが、彼らを診療する医師が足りないのが現状だ。特に地方でその傾向は激しく、医療サービスの質の低下が問題となっている。

 静岡県も慢性的な医師不足に悩む自治体の1つだ。医療施設に従事する医師数は、人口10万人あたり193.9人であり、全国47都道府県のうち43位だった(全国平均は237.8人、2012年時点)。この医師不足に対処するため、情報共有と分業を進めて、業務効率化を図れないか――。こんな想いから2011年に生まれたのが、地域医療連携システム「ふじのくにバーチャル・メガ・ホスピタル(ふじのくにねっと)」だ。

photo 「ふじのくにねっと」の全体像

医療機関で患者の情報を共有

photo ふじのくにねっとのシステム責任者を務める、静岡県立総合病院 副院長の森典子氏

 ふじのくにねっとは、複数の病院や診療所などで電子カルテシステムの情報を共有できるネットワークだ。県内の大病院で集められた各患者の情報(検査結果や処方せん、アレルギー情報など)を管理センターに集約。患者の同意を経て、診療所や介護施設、薬局などに共有できるようになる。

 患者についての情報共有ができることで、病院が得られるメリットは多い。例えば、転院のワークフローが大きく改善される。病状や入退院記録、検査結果や服薬指導といったデータが共有されることで、転院の検討や受け入れがスムーズに行われるようになるという。医療機関間の紹介状や返書の作成、送付などもオンラインで実施でき、その作成業務や管理業務の効率化も行う。

 ふじのくにねっとのシステム責任者を務める、静岡県立総合病院 副院長の森典子氏は、「特に救急なども受け付ける総合病院は、空きベッドを確保したいこともあり、軽い病状であれば転院を勧めています」と話す。

photo 病院間で患者の情報を共有することで、転院依頼時のワークフローが改善される

 ほかにも、院外からVPN経由で患者のデータを参照し、施策のコンサルテーションや手術前の予習、CTやMRIのレポート作成といった作業が行えるようになる。出張先や家など、場所を問わずに仕事ができるために、逆に医師の負担が増す懸念はあるものの、応援で医師が別の病院に駆けつけるといった場面では極めて有効な施策になるという。

 「医師が足りない地域になればなるほど有効です。これまでは救急患者の状態が写真で、スマートフォンに送られてくるといったこともありましたが、これからはセキュリティが担保された状態で参照できます」(森氏)

photophoto 院外からVPN経由で患者のデータを参照するという使い方もできる。応援で医師が別の病院に駆けつけるといった場面では極めて有効な施策になるという。システムは富士通の地域医療連携のパッケージをベースに構築している

 2011年のサービス開始当初は16カ所だった参加施設の数も、2015年3月現在で222カ所になり、情報開示を行った患者の数も1万2242人にまで増えた(2015年3月31日現在)。最近では救急救命にふじのくにねっとが役立つといった事例も出てきたそうだ。しかし、ここまで利用者が増えるまでの道のりは平たんなものではなかった。

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