「800Gbps」をスッと処理 GYAO!の高画質動画を支える技術

全インターネット通信量の多くを占める「インターネット動画」。国内主要サービスの1つ「GYAO!」は増える利用者のより高品質で快適に、のニーズに応えるべく、どんなネットワークインフラに刷新したのか。

» 2015年06月09日 12時38分 公開
[岩城俊介ITmedia]

 インターネットトラフィック量が年々急激に増えている。Cisco Systemsが2014年に出した年次予測リポート「Cisco VNI Service Adoption Forecast, 2013-2018」によると、世界のインターネット人口は2013年の25億人から2018年には40億人に。インターネットに接続するデバイスの台数も同120億台から210億台に、年間のデータトラフィック量も20%以上増え1.6ゼタバイトを超える見込みとしている。中でも大半を占めるのがインターネット動画。2013年の57%から2018年にはトラフィック全体の75%が動画データの転送で占められると予測されている。

photo 「GYAO!」のWebサイト

 月間611億PVのYahoo! JAPAN、その子会社GYAOが運営する無料動画配信サービス「GYAO!」も、その需要をカバーする日本の主要動画配信サービスの1つとして認知されている。同じく成長する動画投稿サイトと異なり、著作権を重視した映像配信プラットフォームとしてサービスを提供している。利用者の需要に応じ、遅れていたHD映像(従来サービスの倍の画質)へ早急に対応し、さらなるサービス品質の向上を計画していた。

100万リクエストと800Gbpsのトラフィックを処理できる高速・高信頼のインフラへ

photo Citrixのロードバランサ「NetScaler MPX」を選定

 HD映像は当然、データ通信量が大幅に増える。今後の利用者数増加も見込まれる。既存のインフラではまかなえなくなる課題を解決すべく、ヤフーはGYAO!のネットワークインフラの刷新に踏み切った。

 選定の課題はどんなロードバランサを採用するか。要望は「800Gbpsを安定処理する高速さ」。具体的には毎秒100万リクエストと800Gbpsのトラフィックを処理できる高速なインフラを望んだ。従来のレイヤー4のロードバランサではサーバへの負担が大きすぎるため、レイヤー7を高速に処理できるロードバランサによりサーバあたりの負荷を軽減し、台数と運用コストの抑制も同時に目指したいと考えた。

 厳しいインフラ要件と選定作業のもと、Citrixのロードバランサ「NetScaler MPX 22120」を選定した。「今後、HTTPSが一般化していくことを考え、SSL処理のパフォーマンスも重視しました」(ヤフー システム統括本部 サイトオペレーション本部でロードバランスを担当する宮田耕一氏、以下宮田氏)

 NetScaler MPX 22120は1台あたりのレイヤー7ロードバランシングの性能が優れ、業界トップクラスのSSL処理性能(SSLスループット75Gbps)を持つ。また、2Uサイズの小さい筐体サイズであることも選定ポイントの1つという。「サービスベンダーにとって、ラックスペースは資産。小さい方がメンテナンスに優れます。小さい筐体で高いパフォーマンスを発揮する我々のニーズにマッチしていました」(宮田氏)

 もう1つは「MBF(Mac Base Forwarding)」に『対応していたこと。GYAO!のインフラはさまざまなネットワーク機器がロードバランサに接続され、さまざまなトラフィックがさまざまな経路で流入してくる。この従来のルーティングではボトルネックになる可能性を、MBFにより相互接続を簡単に行い、大容量の配信を可能にした。

 「前例のない膨大なトラフィック量が想定されるため、不安もあった。同機種をレンタルしてくれ、動作検証を十分にできてから導入決定ができました。実運用に入っても想定どおりの性能を発揮しており、ことレスポンスにおいては期待以上の数値が出ています。100%のトラフィックを流して1か月ほど稼働させていますが、これまで障害もなく、GYAO!の高画質映像を安定的に配信することができています」(宮田氏)

photo Citrix社内デモルームに設置されていた「NetScaler」(ラック右上)

NetScalerのクラスタリング機能、40G/100Gインタフェースなどにも期待

 NetScalerの導入により、サーバへの負荷を大幅に軽減することが可能となり、コンテンツ配信を担うサーバ数を削減。結果として消費電力やラックスペースも抑制され、高画質映像の配信でサービス品質を向上しつつ、通信速度あたりのコストが大幅に削減できたという。

 2015年現在の構成は短期での導入だったことから実績のある「VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)」で冗長化しているが、今後のさらなる高画質化や利用者増で通信量が増大すると、ロードバランサの負荷の肥大化も懸念される。今後の発展としてNetScalerのクラスタリング機能や40G/100Gインタフェースなどにも期待している。

 「現在のNetScalerは、10Gのインタフェースで運用していますが、GYAO!のように広帯域なインフラではケーブルが増えてしまう。40Gのインタフェースカードもリリースされる予定だと聞いていますし、さらに100Gへの対応も大いに期待しています」(宮田氏)

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