患者の大切な命と情報を守りながら、厳しい現場環境をどう改善していくべきか――。福井大付属病院ではインフラからデバイスまで大規模な変革に挑んでいる。
病院など医療の現場では電子カルテの普及や機器のデジタル化を背景に、ICT導入が急速に進む。ICTによって、“いつでも・どこでも”必要な情報を活用しながら、患者に寄り添う医療を実現したいというのが現場の思いだ。しかし、複雑化したIT環境がこの目標を難しくさせている現状があるという。Interop Tokyo 2015では福井大学医学部付属病院(福井大病院) 医療情報部の山下芳範副部長が、モバイルデバイスと情報を活用する医療現場への取り組みを語った。
24時間体制で患者の命を預かる病院にとって、医療情報システムは必要不可欠な存在だ。医療情報システムがなければ診療はままならず、システムには高い信頼性や可用性、そして、患者の大切な個人情報を保護するセキュリティが求められる。それと同時に、ICTの利便性を業務の現場へ提供することで理想的な医療環境をかなえるものでなければならない。
加えて急速なICT化は、病院内に複数のシステムやネットワークが乱立する状態を招いた。システムごとに多数のサーバや端末、ネットワークが存在し、各システムがバラバラなまま、連携も進んでいない。理想的な医療現場を実現するには病院のICT環境を効率化する必要があり、約600床を抱える福井大病院では約10年前からICT環境の刷新を進めている。
山下氏によれば、医療の現場がICTに期待することとは、いつでも、どこでも(ユビキタス)情報を活用できる環境の実現。ICTの刷新は無線を含むネットワークを整備し、モバイルデバイスで必要な情報を利用できること、さらには、ナースコール設備を高度化して情報を生かす診療サービスを提供できることが目標になった。
ユビキタスな情報活用の基盤作りでは、まずファットクライアントやワークステーションも含めてバラバラだった各種システムを、サーバはVMware、アプリケーションはXenAppを利用して集約化した。端末からシステムにシンクライアントで接続し、端末では表示用データのみを利用することで、データの本体が端末に残らないことからセキュリティ性が高まった。
また、医療情報や医療機器、事務処理、研究、インターネット・電話などに分かれていたネットワークも仮想統合し、共有化を図った。統合ネットワークでは帯域制御によって医療系データを優先的に制御する。認証LANとすることで、機器を接続するだけに適切なLANへ自動的に接続されるようにした。将来を見据えて、IPv6にも対応させている。
ICTインフラの刷新による効果の一例では、無線系のトラフィックが従来の5分の1から10分の1程度に減少した。山下氏によると、かつては診療開始時刻などに端末からシステムへのアクセスが集中し、CT画像など大容量データを含むトラフィックが発生していたが、シンクライアント化によって転送されるデータ量は大きく減った。
同時にマルチデバイス化も実現し、ICTの利便性が大きく向上。従来は必要なデータを専用端末でしか利用できず、医師や看護師らが病室と専用端末のある場所を往復しなければならないことも。この他にも「実はApple好きの医師が多く、従来はApple製品を利用できないなどの不満があったものの、シンクライアント化でなくなった」という効果も得られたという。
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