マイナンバー2015

第4回 「マイナンバーを持たない」という選択肢を考える税理士目線で提案する「中小企業のマイナンバー対策」(1/2 ページ)

マイナンバー制度は全ての企業、さらにその委託先──例えば税理士の業務にも深く関係する。中小企業のマイナンバー対応は「税理士への委託を考慮した対策」が必要だ。4回目は「マイナンバーを持たない」という選択肢について考察する。

» 2015年07月15日 11時00分 公開

講師:中尾健一(なかお・けんいち)氏

アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役。1982年日本デジタル研究所(JDL)入社。日本の会計事務所のコンピュータ化を30年以上に渡りソフトウェア企画面から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システムを企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。2015年4月に発足したクラウドマイナンバー事業における「マイナンバーエバンジェリスト」として、中小企業の財務を担う税理士の視点から、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。



税理士事務所で「マイナンバーを保管」すると……

 中小企業が年末調整業務を税理士事務所に委託している場合、中小企業で収集された従業員などの個人番号は税理士事務所に受け渡され、事務所のコンピュータシステムに登録、保管することになります。

 特定個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「ガイドライン」)によると、個人番号を含む特定個人情報ファイル(データや紙書類)を取り扱うシステムを管理する区域を「管理区域」、特定個人情報を取り扱う事務を実施する区域を「取扱区域」と区別し、それぞれに物理的安全管理措置を講じることを求めています。

 具体的には、個人番号が登録・保管されているサーバやコンピュータが設置される「管理区域」については、ICカードやナンバーキー、生体認証などによる入退室管理を確実に行うことなどがガイドラインでは示されています。また、個人番号が記載された書類や個人番号をPC画面に表示して作業する、マイナンバー実務の「取扱区域」に関しては、通常の事務スペースとの間に壁、または間仕切りを設置せよとされています。

photo 物理的安全措置のイメージ

 盗難を防止するための措置として、サーバやコンピュータ機器に個人番号が保管されている場合は、セキュリティワイヤーなどで固定する方法が例示され、加えて個人番号を記録した電子媒体や、個人番号を記載した書類がある場合は、施錠できるキャビネットや書庫などに保管せよとされています。

 データ、紙書類ともに個人番号を保管する場合は、以上の物理的安全管理措置を企業も税理士事務所も同様に講じることが求められることになります。

 さて、もともと中小企業の財務や税務の情報を取り扱う税理士事務所は、税理士法により守秘義務が課せられておりますので、施錠できるキャビネットや書庫などは備えています。この部分は新たな負担にはなりません。しかし「管理区域」への入退室管理や、「取扱区域」と通常の事務スペースとの間の間仕切りを設置するなどの措置は、新たに対応することになることでしょう。これが税理士として負担になるとともに、従来のように所員全員で年末調整業務にあたるといった仕事の仕方にも影響を与えることになります。

個人番号を記載した申告書などを税務署へ書面で提出する場合

 さらに、税理士が中小企業の代理人として個人番号が記載された申告書や申請・届出書、法定調書などを税務署に書面で提出する場合、法令で定められた本人確認書類などの提示が求められることになります。

 国税庁が示す「国税分野におけるFAQ Q3-6」では具体的に、

  1. 委任状
  2. 代理人の個人番号カードや運転免許証による身元確認
  3. 顧客の個人番号カードや通知カードの写しなどによる本人確認

 以上3点の提示と確認が必要とされています。

 (1)については、従来から「税務代理権限証書」という書類が「委任状」に相当する書類として申告などに際して使用されていますので、「税務代理権限証書」を申告や申請の都度、提出することになります。

 (2)については、税理士としての身元確認として税理士証票がありますので、個人番号カードや運転免許証の代わりに税理士証票を提示する、または写しを添付することも考えられます。

 (3)については、「国税分野におけるFAQ」に記載の通り、顧問先納税者の個人番号カードや通知カードの写しの添付が必要となります。

 やはり個人番号を記載した申告書などの書面による提出に際しても、以前に増して煩雑な手続が必要になります。

 これに対して、電子申告・申請では、個人番号が記載された申告書などの場合でも、従来通りの税理士による代理送信が認められています。

 書面での提出のわずらわしさや、顧問先の個人番号が記載された書面を提出のため持ち歩くことの安全管理面でのリスク、また個人番号が記載される申告書や申請・届出が集中するのが繁忙期であることを考慮すると、個人番号が記載された申告書や申請・届出書、法定調書などの提出は電子申告・申請で行うことがベストな選択となります。

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