業務システムが使いづらかったとしても、ユーザーは案外、それに慣れてしまっているから、かなりじっくり話さないと、“真の要件”は出てこないんです。
この手の“いい話”が出てくるのは、実は“飲み会”なんですね。だから、まずは部長同士で飲みに行けばいい。「確かに、こうなってたら本当にいいよね!」と、お互いに盛り上がって、互いの部署同士で“なにかやろう”という話にもなりますから。
――新しいことを始めるときに、社内で反対にあったりしませんか?
長谷川: ありますよ。システムを内製化しようというときも、「世の中の主流はアウトソースなのに、大丈夫なの?」と言われました。でも、「大丈夫です」と。
新しいことを始めようとしてうまくいかないのは、「大丈夫」と答えてないからなのでは? こっちも自信があるから言っているわけで、こっちが「大丈夫」と答えれば、相手は「おう、そうか」ということになりますよ。
さらに、内製化にしても、ソーシャルメディアやクラウドにしても、まずは小さく始めて、ダメだったらすぐ撤退できるようにしているから、「何か問題ある?」って言えるわけです。
それと、100%を目指すのをやめる。「2:8の法則」です。細かいところは気にせず、2割の力を使って8割の効果を出せる心臓部分を探すんです。
――POSレジを自社で作るというのも、そういう考え方からですか?
長谷川: そうですね。きっかけはPOSレジにカスタマーディスプレイを付けて、「お客さんとコミュニケーションする場にしたい」と考えたことです。会計をする時間って、お客さんは「どこを見ながら待っていたらいいか分からない」という状況になっていたので、変えようと思ったんですね。
それをメーカーに相談したら、「POSをまるごと入れ替えることになる」って言うんです。POSシステムは、いわば“小売業の聖域”で、“止めてはいけないシステム”ということになっているんですよ。だから、「どのボタンを押してもおかしくならないように」といった要件から、高機能で複雑に作られているんです。そのため、仕様変更に多大なコストがかかってしまうんですよ。
でも、例えばこれを、“会計の途中でキーを押し間違えたら、全クリアして最初からやり直せばいい”と考えれば、すごくシンプルなシステムになるんですよ。そんなこともあって、結局、POSシステムは自前で開発することにしたんです。新しいPOSシステムは、既にシンガポールで稼働していて、日本でも9月頃から展開する予定です。
日本は特に、“100点主義で前に進めない”というところがありますね。小売業で比較しても、米国では業務用のiPhoneアプリもたくさん出ていて、iPhoneで在庫を確認するような使い方も珍しくありません。日本だと「アプリと実地で在庫数が合ってなかったらどうする?」というところで止まってしまってリリースできない。でも、“何か大きく変えるフェーズ”では、「多少不完全でもやる」ことも必要だと思います。
――現状を変えよう、新しいことに挑戦しようというときに、それを成功させるためのポイントは何でしょうか?
長谷川: 僕は日本交通 川鍋一朗社長の「重要な事よりも、結果が出ることをやれ」という言葉が好きなんです。「重要なこと」は難しくて簡単には到達できなかったりするから、確実に効果を出せるところに集中すべきだと考えています。
だから僕は、新しいことを始めるときには何かにフォーカスして、小さくても成功モデルを作るんです。どこかの部署の「これをやろう」と決めて、一生懸命やる。そこで効果が出れば、「他の部署にも」という流れになります。
最初に鳥瞰図みたいなものを作って全部を網羅しようとするとなかなか進みません。他にもいろいろ課題があったとしても、まずは一点突破でやっつける。「たまたまあそこの部長と仲がよくて、あっちも乗り気だからそこからやる」でいいんですよ。他にもっと重要な部署があったとしても、協力的でなければうまくいかないでしょう? 社内でのポジションを確立するには、何よりさっさと結果を出すことが大切です。
1999年一橋大学卒。2009年デジタルハリウッド大学院修了。コクヨおよびベネッセコーポレーションで11年間勤務の後、フリーランスに。企業に対する教育系Webサービスやアプリの企画・開発支援を行うと同時に、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。さまざまな組織人にインタビューをし、多様な働き方、暮らし方と、それを実現するためのノウハウを紹介している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.