もし亡くなったら――いま熱いデジタル遺品(後編)萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/3 ページ)

» 2015年10月30日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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ケース3:遺族が本人の「開示情報」を速やかに受けとるには?

 最善策は、事前に年数回の話し合いを持つことだ。本人が秘密にしているID、パスワード、ワンタイムパスワードや、お金に関する重要な情報(定期預金の期間や金額、先物取引の有無、株の有無、投信などの有無、オークションのID、パスワード、**新聞デジタル版や専門サイトの購読料、アダルトサイトの利用額など)について、どこに記載・保管しているかを伝え、死亡後に対応してもらうようにしておく。生存中に本人以外が見ると開封シールで分かってしまうなどの工夫も必要だ。

 もし既に本人が亡くなっているなら、遺族は専門業者と相談し、まずはPCを起動できるようにすべきだろう。OSのパスワードは相当な確率で判明でき、スマホも同様だが、パスワードロックがかかるまで試すのは止めた方がいい。トラブルを恐れて仕事を受けない業者も多く、遺品専用サイトを開設している信頼できる業者を選択していただきたい。

ケース4:遺族が不倫写真(隠ぺい情報)を発見した時は?

 遺族がこういう証拠を発見した場合、まずは冷静になり、「相手の名前」「勤務先」「既婚か独身か」「家族構成」などを調査したうえで、慰謝料を請求するかどうか検討する。相手と面談すべきかどうかなどについて、離婚専門の弁護士などに相談するのが最もいいだろう。くれぐれも怒りに駆られた行為は慎んでほしい。既に死んでいる人になにをしても無駄だ。今後を明るく過ごすために、どうすべきかについて前向きに考えられるように努めていただきたい。

ブログやSNSはどうする?

 最後にブログやSNSでの注意点を4つほど挙げたい。

その1:ユーザーの死後をサポートするサービスはまだ少数派

 情報セキュリティの基本ではないが、「自分の身は自分で守る」という原則に照らしてみると、ユーザーが急死した場合に、ブログならそのまま引き継ぐ人がいるのかどうかがポイントになる。FacebookやTwitterなどのSNSなら、スムーズにアカウントを閉鎖する管理者を決めておくなどが次善の策だろう。

その2:同じ趣味の友人に継承してもらう準備を

 趣味のWebサイトやブログなどの運営は、同じ趣味を持つ友人が引き継げるように普段から準備し、管理・運営に必要な情報を伝える。しかし、引き継ぐのは長くとも数年と考えて、その後は友人の意思に任せる方が望ましい。SNSなら本人が決めた親族の管理者にアカウントを閉鎖してもらうための情報を前もって伝える。万一の際に親族がサービス運営先へアカウントの閉鎖を依頼しても、死亡したことや、閉鎖が本人の意思であることの証拠を求められる可能性もあり、本人が考える以上に大変な作業になってしまうので注意したい。

その3:状況を常にチェックする

 ユーザー本人が死亡した後の適切な対応については、まだきちんとしたルールがない状況だ。こうした状況はドラスティックに変化しているので、常に最新情報をキャッチして自分に合う変化ならそれに乗るのも一手だ。情報のアンテナを常に高くしておく。

その4:サイバー犯罪に巻き込まれないように

 急死したユーザーのアカウントが放置されたままサイバー攻撃者によってIDとパスワードが盗まれ、偽販売サイトの広告やフィッシング詐欺の温床となって、多くの人に迷惑をかけてしまったという事件が起きている。最低でも友人たちが被害に遭わないための対応はしておきたい。


 「デジタル遺品」を含めた問題は、人間自身の問題でもある。ただ、実態としては目に見えない“デジタル”という壁ができ、その功罪が人の寿命と絡み合って事態を複雑化させている。死後どうすべきなのか、ぜひ一度ゆっくりと検討されることをお勧めする。家族が本人の死去だけでなく、デジタル遺品によって、さらに悲しまないための対策が必要だ。安心して暮らせるための「デジタル資産管理」というものを考えるきっかけになれば幸いである。

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【萩原栄幸】

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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