ITシステム開発はなぜ失敗するのか?成迫剛志の『ICT幸福論』(1/2 ページ)

システム開発で陥りやすい“落とし穴”や、うまくいくための秘訣を、筆者の経験に基づいて解説。カギとなるのは、システムエンジニアに求められる「4つの能力」だ。

» 2016年05月26日 08時00分 公開
[成迫剛志ITmedia]

この記事は成迫剛志氏のブログ「成迫剛志の『ICT幸福論』」より転載、編集しています。


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 2014年から、あるシステム開発プロジェクトに取り組んできた。私が担当する以前に何度か失敗してきた 「いわくつき」の領域のシステム開発であったが、プロジェクトマネジャーおよびメンバーの不屈の精神によって幾たびもの苦難を乗り越え、ようやく計画していたほぼ全てを本番移行することができた。

 知人の日下ヤスユキ氏の著書『ITシステム開発はなぜ失敗するのか(幻冬舎)』でも、システム開発における「落とし穴」や「うまくいくための秘密」が数多く紹介されているが、今回のプロジェクトでわれわれプロジェクトチームが直面した「事案」について、私自身の備忘録の意味も兼ねて以下に紹介しておきたい。

システムエンジニアに求められる4つの能力

(1)「業務要件が決められない業務担当者」に学ぶ「忍耐力・コミュニケーション能力・理解力」

 今回のシステム化の領域は、紙やExcel、断片的に存在する個別のシステムで行われている一連の業務のシステム化であった。そのため、各部署での業務内容をヒアリングし、業務要件を整理していく必要があったのだが、システムエンジニアが何度もヒアリングをして業務内容を整理し、担当部署に確認してもらっても、なかなか業務要件が確定できない。

 理由は、担当部署がそもそも業務を正確に理解できていないことが少なくなかったからである。“先代から受け継いだ作業(?)”を粛々とやっている状態で、業務の全体像、詳細内容とその目的や理由が現場の担当者ですら見えていないことがあった。

 この状態を克服するためには、システムエンジニアが忍耐強くヒアリングを重ね、業務を理解するしかない。結果として、システムエンジニアが業務担当者よりも業務をより深く知ることができ、後工程であるTo-Beの業務フローのデザインはスムーズに行うことができた。

 システムエンジニアには、強い忍耐力とコミュニケーション能力、そして理解力が求められる。

(2)「汚れたデータのクレンジング」に学ぶ「卓越した交渉力」

 断片的に存在する個々のシステムや個々のExcelに保存されているデータは、もともと他のシステムとの連携や他の目的での利用を前提としていないため、個別の業務上で問題なければよいという入力の仕方で蓄積されたデータであった。

 そのため、入力方法に相当なバラツキがあるだけでなく、多くの貴重なデータが“備考カラム”に非定型フォーマットで書かれているケースが多かった。また、各種マスターについても作成ルールが曖昧で、例えば同一企業に複数のコードを割り当てているなどといったケースも少なくなかった。さらにExcelに至っては、“お絵描きツール”的なレイアウトでのデータ入力が行われていて、レコードとして抽出できないようなものや、削除すべきデータをExcelの書式でグレーアウトしていたり、文字に取り消し線を入れていたりして、一括抽出しようとすると、本来削除されているべきデータまで抽出されてしまうということもあり、大いに悩まされた。

 このような“汚れたデータ”のクレンジング作業は、パターンを見つけ出してクレンジングツールをプログラムで作成して対応するということもやってみたのだが、限界があり、最終的には現場の業務担当者の手作業に頼らざるを得ない。多忙な担当者および担当部署長に、理由や作業の目的、結果として得られるメリットなどを説明し、納得いただくことで、相当な工数が掛かったものの、無事にデータ移行に耐えられる品質のデータにクレンジングすることができた。

 システムエンジニアには、卓越した交渉力が求められる。

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