ITシステム開発はなぜ失敗するのか?成迫剛志の『ICT幸福論』(2/2 ページ)

» 2016年05月26日 08時00分 公開
[成迫剛志ITmedia]
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(3)「ネガティブキャンペーン」に学ぶ「カウンセリング能力」

 どんなシステム開発においても、業務現場の保守的な対応に悩まされることが少なくない。

 今回のシステム開発では、業務要件の整理や全体設計、それに伴うマスターやデータベース設計をしっかりと行った上で、細かい画面レイアウト、画面遷移や例外的な業務フローについてはいわゆる“アジャイル的”に開発を行った。粗々な画面とクレンジング前の不完全なマスターやデータによるプロトタイプを作成し、各業務の現場のユーザーに見せ、修正すべき点や不具合を洗い出してもらい、修正していく。そんなやり方を採った。

 しかしながら、これに慣れていないユーザーにとっては、開発サイドからのテスト・確認の目的の説明や擦り合わせが不足していたこともあり、少しでもおかしい挙動があったり、おかしなデータが見つかった時点で、「こんなもの使い物にならん!」「あいつら、とんでもないもの作っている」となり、テストを中止してしまうことが多々あった。

 それでも、テストしてもらわないことには開発が進まないこともあり、協力を依頼したのだが、コミュニケーションミスもあり、結果的には業務部門、ユーザー部門からのシステム開発に対するネガティブキャンペーンに発展してしまう事態となってしまった。「あんなやり方では、絶対にうまくいかない」「とんでもないシステムを作ろうとしている」「そもそもあんな画面ではユーザーに対して失礼だ」というような声が業務部門側でささやかれてしまう状況である。

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 事前に、アジャイル開発を行うこと、テストしてもらうものは試作品であって、完成品とはほど遠いものであるが、大まかな動きを確認するのが目的であること、データはテストデータであることなどを説明し、理解してもらっていたはずであったが、システム開発側の説明不足、コミュニケーション不足によってこのような事態を招いてしまったと反省している。

 システムエンジニアには、相手の気持ちに立つことのできるカウンセリング能力が求められる。

(4)「システム開発の主役」に学ぶ「プロデューサー能力」

 上記(1)〜(3)の根本原因もコレであると思う。それは、「システム開発の“主役”は業務部門である」というコンセンサスが得られているかどうか、ということである。

 特に中規模以上のシステム開発を経験していない業務部門担当者は、システム開発部門が“完璧なもの”をつくり、“不具合なくすぐに使える”状態に仕上げ、それを使うと“現場はすぐに楽になる”と考えがちである。ユーザー部門は「お客さま」であるという意識がどこかに残ってしまうのだろう。

 非常に難しいことではあるが、プロジェクトの計画段階で、「システム開発の主役は業務部門、ユーザー部門である」こと、「その主役の要件、意見をシステムに最もよいカタチで反映するために、開発のプロセスをウォータフォールとアジャイルの組み合わせで行う」こと、それゆえ「業務部門、ユーザー部門に主体的に動いてもらう必要がある」こと、「最終ゴールを共有し、システム開発部門と“共創”していく」こと。これらを明文化し、コンセンサスを得ておくべきだったと思う。

 システムエンジニアには、プロデューサー能力が求められる。


 今回のプロジェクトは、さまざまな困難はあったものの、結果としてはよいシステムに仕上がったと思っている。今では業務部門、ユーザー部門が、「このシステムは俺たちがつくったんだ」と自分たちの成果として感じてくれているような発言もでてきていることに、今回のプロジェクトの責任者として涙が出るほどうれしく(陰でほくそ笑んでいたり……笑)、プロジェクトに関わった一同に深く感謝している次第だ。

著者プロフィル:成迫剛志

SE、商社マン、香港IT会社社長、外資系ERPベンダーにてプリンシパルと多彩な経験をベースに“情報通信技術とデザイン思考で人々に幸せを!”と公私/昼夜を問わず活動中。詳しいプロフィルはこちら


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