今や社会インフラの一部になったともいえるクラウドコンピューティング。その仕組みを、電気の発展の歴史に例えて解説します。
カップめんを待つ間に、電車の待ち時間に、歯磨きしている間に“いまさら聞けない”ITトレンドが分かっちゃう! 今さら聞けないITの最新トレンドやビジネス戦略を、体系的に整理して分かりやすく解説する連載です。「この用語、案外、分かっているようで分かっていないかも」「IT用語を現場の社員にもっと分かりやすく説明できるようになりたい」――。情シスの皆さんのこんな課題を解決します。
「クラウドコンピューティング」という言葉は、もはや知らない人はいないほどに広く定着しました。この言葉が使われるようになったのは、2006年、当時、GoogleのCEOを努めていたリック・シュミットの次のスピーチがきっかけだといわれています。
データもプログラムも、サーバ群の上に置いておこう。そういったものは、どこか“雲(クラウド)”の中にあればいい。必要なのはブラウザとインターネットへのアクセス。PC、マック、携帯電話、ブラックベリー(スマートフォン)、とにかく手元にあるどんな端末からでも使える。データもデータ処理も、その他あれやこれやもみんなサーバに、だ。
彼の言う“雲(クラウド)”とは、インターネットを意味しています。当時、ネットワークの模式図として雲の絵がよく使かわれていたことから、このような表現になりました。
あらめて整理してみると、次のようになるでしょう。
上図の「インフラストラクチャ」とは、業務を処理するための計算装置、データを保管するための記憶装置、通信のためのネットワーク、それらを設置して運用するための施設や設備のことです。「プラットフォーム」とは、さまざまな業務で共用されるデータベースや運用管理などのソフトウェア、また、それらを使ってアプリケーションを実行させる仕組みのことです。「アプリケーション」とは、私たちが最も身近に接する業務サービスのことです。
次に「クラウドコンピューティング」について、電気の歴史をひもときながら見ていくことにしましょう。
電気が日常で使われるようなった当初、その目的は「電灯」をともすことにありました。そのため、発電や送電の設備はそれに見合う程度の能力しかなく、工業目的で使用するには、十分なものではありませんでした。
19世紀の終わりから20世紀始めにかけて、電力が工業生産に用いられるようになった頃、電力を安定的に確保するために自家発電設備を持つことは常識とされていました。しかし、発電機は高価な上、保守・運用も自分たちで賄わなくてはならず、効率の悪いものでした。また、所有している発電機の能力には限界があり、急な増産や需要の変動に臨機応変に対応できないことも課題となっていました。
この課題を解決しようと、電力会社が、発電や送電の能力を高め、工業生産にも使える高出力で安定した電力を供給できるようにしたところ、効率も上がって料金も下がってきました。また、共用によって、一つの工場に大きな電力需要の変動があっても、全体としては相殺され、必要な電力を需要の変動に応じて安定して確保できるようになりました。こうして、もはや自前で発電設備を持つ必要がなくなったのです。
これを情報システムに置き換えてみれば、何が起こっているかか想像がつくのではないでしょうか。
発電所は、コンピュータ資源を設置したデータセンターです。送電網は、インターネットです。需要の変動に対しても、能力の上限が決まっている自社システムと異なり、柔軟に対応することができます。
また、電力と同様に、利用した分だけ支払う従量課金ができるので、大きな初期投資を必要としません。これもまた、発電機を購入しなくてよくなったことと同じです。
コンセントにプラグを差し込むように、インターネットに接続すればシステム資源を必要なときに必要なだけ手に入れられる時代を迎えたのです。情報システムを「所有」する時代から「使用」する時代への転換です。
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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