ビジネスを変えないデータ分析は意味がない 大阪ガス河本氏に聞く、IT部門の役割情シス“ニュータイプ“の時代(2/2 ページ)

» 2016年07月27日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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外部のリソースも活用し、効率よく課題を解決

 「チームの役割はあくまでビジネスに貢献すること」という考えは、河本さんの次の言葉からもうかがえる。

 「誤解を恐れずに言えば私たちは、“分析問題を自分たちで計算して解く”ということに重きをおいていません。もちろん全くやらないと経験やノウハウが蓄積されないので解きますが、数学的にものすごく難解なことまで自ら勉強してやるかというと、それにリソースを割くことには意味を感じていないんです。そういう分析が必要な場合は、信頼できるコンサルに委託しています」

 それ以外にも、幾つかのデータ分析業務はIT子会社のオージス総研に委託しているという。といっても、オージス総研がもともと分析に強かったというわけではなく、先方から出向者を受け入れ、OJTでノウハウを伝授することを今も続けているそうだ。これにより、オージス総研としては大阪ガス以外の顧客のデータ分析のサービスもできるようになるので、互いにWin-Winの関係になっている。

データ分析の成功を確信する瞬間

 ビジネスに生かされるデータ分析をするために、河本さんたちは現場を知る努力を惜しまない。

 「現場の業務を変えることがどれだけ大変か、どんな調整をしなければいけないのか――、そういったことを肌で感じ、意思決定をする方々と同じ当事者意識になれるように、私たちは現場に行って学びます。例えばヘルメットを付けてメンテンナンス担当と一緒に現場に行ったり、現場の会議にオブザーバーとして参加させてもらったりするんです」(河本氏)

 一方で、実際に業務を変えるには、事業部側の担当者のコミットも不可欠だ。データアナリシスセンターでは、現場を巻き込むのに有効な仕掛けも活用している。

 1つは「独立採算制」と呼ばれる制度だ。事業部から依頼を受けると、まずは要件を決め、その対応工数を見積もって費用を提示する。それを受けた依頼者が自部門の中で決裁を仰ぎ、予算が確保できればプロジェクトが動き出すという形を取っている。

 この仕組みにより、事業部側は費用対効果や優先順位を考えて依頼内容を取捨選択することになる。また、コストの見える化によって、事業部側の担当者もデータ分析の担当者も、「コストに見合う成果を出さなければいけない」という責任意識を高める効果があるという。

 現場を巻き込むもう1つの工夫は、依頼者と密にコミュニケーションを取りながらデータ分析を進めるということだ。

 以前は最初の打ち合わせで分析内容を決め、3カ月ほどかけて出した結果を報告すると「ちょっとそれ、(期待していたものと)違うんだけど」といわれてしまうような失敗もあったそうだ。今は頻繁に途中経過を報告することで、間違った方向に進むことを防ぐ。この報告は、相手の信頼と期待、そして関与を高めるという効果も生まれている。

 「このデータ分析は成功するぞ、と分かる瞬間があるんです。どういうことかというと、事業部の人って、最初はデータ分析に対して半信半疑なところがあるんですね。だから少し心理的な距離感があるのですが、何度も分析結果を報告していると、目の色が変わる瞬間がある。それは、『これで行ける!』と確信した時です。そうなったら絶対成功しますよ。なぜなら、事業部の担当者が、やりたくてたまらなくなるから。『こんな分析もしてくれたら、もっと使えるんですけど』みたいな提案が、向こうからどんどん出てくるようになるんです」(同)

 ビジネスを知っている現場の側からどんどん分析のアイデアが出てくるようになったら、分析の成功率は飛躍的に高まる、というわけだ。

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 なお、「独立採算制」といっても、見積もりはあくまで事業部側に依頼案件の優先順位を付け、成果にコミットしてもらうためのものであり、見積もりが外れて赤字になっても問題にはしないという。現場の担当者とのやりとりで要件が変わったり追加の作業が出たりしても、柔軟に対応できる――。それこそが、社内に専門チームを持つメリットといえるだろう。

 現在、データアナリシスセンターには河本さん以外に9人のメンバーがおり、全体で25ほどの課題に取り組んでいる。今の時代、データ分析にしろシステム開発にしろ、現場を探せばいくらでもやれることはあるはずで、外注化の仕組みを作ったり、仕事の進め方で成功率を高めたりと、少ない人数でいかに効率よく貢献できるかを考えることも、大事な役割だと気付かされる。

 後編では、専門家チームが社内で信頼を勝ち得ていくための方法や、技術系人材を生かす組織づくりについて聞く。

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