AWS導入のノウハウを全公開するドコモ、その狙いとは?(1/2 ページ)

NTTドコモといえば、日本の通信インフラを支える大企業だが、一方でITを活用した各種サービスを利用者に提供するユーザー企業でもある。そんなドコモが、クラウド活用のノウハウを安価に販売しているのだという。その理由とは。

» 2017年07月21日 11時20分 公開
[園部修ITmedia]

 「NTTドコモが、『ドコモ・クラウドパッケージ』という、クラウド活用のノウハウが詰まったドキュメントを販売している。これがとても分かりやすく丁寧ですごい」――。Amazonのパブリッククラウドサービス「AWS」のユーザーグループ、JAWS-UG(AWS User Group - Japan)のイベントで、こんな話を何度か聞いた。

 ドコモ・クラウドパッケージとは何なのか。なぜドコモが販売しているのか。何がきっかけでこのようなものを作ったのか。そして気になる中身は何が書かれているのか……。次々と沸き立つ疑問を直接確認すべく、NTTドコモに話を聞いた。

NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当の守屋裕樹氏とイノベーション統括部 クラウドソリューション担当 担当課長 博士(学術)の森谷優貴氏 左から、NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当の守屋裕樹氏と、イノベーション統括部 クラウドソリューション担当 担当課長 博士(学術)の森谷優貴氏

社内でクラウドサービスを活用するために作ったガイドライン

 ドコモは、言わずと知れた日本最大の移動体通信事業者であり、通信インフラを担う企業だが、同時に携帯電話やスマートフォンの契約者向けに、ITを活用したさまざまなサービスを提供しているユーザー企業でもある。それらのサービスは、ドコモが自社で企画・開発して自前のサーバで運営していると思っている人が多いかもしれないが、パートナー企業と協業し、クラウドサービスを有効活用して開発しているものも数多くある。

 NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当 担当課長博士(学術)の森谷優貴氏は、「クラウドを活用した商用サービスを初めてリリースしたのは2012年です」と話す。

 NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当 担当課長博士(学術)の森谷優貴氏 森谷氏

 「『しゃべってコンシェル』のサービス立ち上げなどに利用しました。その後も、お客さま向けに短期間でリリースしなくてはいけない場合であったり、サービスを始めるまでどれくらい使われるか分からなかったりした場合などを中心に、さまざまなサービスでパブリッククラウドを使っています」(森谷氏)

 最初に使い始めたクラウドサービスはAmazon Web Services(AWS)で、AWSに関しては5年以上の経験を持つ。クラウドサービスを使い始めた当初は、オンプレミスの場合とはいろいろと異なる部分があり、戸惑いも多かったという。

 「今まで作ってきたものとは、作法なども含めて少しずつやり方を変えていく必要がありました。そこで、ドコモ社内の人間と、関連するベンダーの関係者さんとの認識を合わせるため、『クラウド利用のガイドラインを作ろう』ということになりました。それがドキュメントを作り始めたきっかけです」(森谷氏)

 社外のサーバを使い、社外にデータを置くことになるため、セキュリティ対策をしっかり考える必要もあった。そこで2013年頃には、クラウド環境、特にAWSでのセキュリティ対策をどうしたらいいか、といった資料も社内でまとめて配布した。

 もともとは社内向けの資料だったが、このガイドラインや資料の存在についてAWS Summitの講演で話をしたところ、「ぜひ参考にしたいので、よかったら売ってもらえませんか」という話が舞い込んだ。こうして「ドコモ・クラウドパッケージ」が生まれた。

クラウド利用の“作法”や“突っ込まれるポイント”が好評

 ドコモ・クラウドパッケージは、販売開始から2年半が経過して、現在は100社ほどが利用しているという。顧客はコンスタントに増えており、クラウドを使う企業が徐々に増えているのに合わせ、導入企業も広がっている。

 ユーザーの内訳は、大企業がおよそ5〜6割、開発や運用を受託するシステムベンダーが2〜3割くらい、残りがスタートアップ企業を含む中小企業。大企業はクラウド利用のポリシー作りの参考に、システムベンダーはクラウドを使う企業のニーズを知るために、ドコモ・クラウドパッケージを利用している。

 また、スタートアップ企業で、大企業向けにサービスやソリューションを提供する際に、どういう要件を満たしておく必要があるか、といった点を参考にするケースもあるそうだ。つまり、「ドコモに納入できるクオリティの要件を満たし、セキュリティ対策を行っておけば、大企業にプロダクトを納入する際、納品間際に慌てて対応するような事態を予防できるのです」と、イノベーション統括部 クラウドソリューション担当の守屋裕樹氏は話す。

NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューション担当の守屋裕樹氏 守屋氏

 「お客さまがクラウドを使おうと考えたとき、これまでドコモが直面してきたものと同じような課題を持たれることが多いのです。AWSやAzureは、使い始めるのがすごく簡単なので統制が取りづらいとか、サーバを構築するときにどこに気を付けたらいいか分かりにくいとか。こうした課題をドコモがどう解決したか、具体的にどうしているか、という事例が、参考になっていると聞いています」(守屋氏)

 企業によっては、提供したドキュメントをそのまま社内のポリシーに流用する、といった使い方もあるという。さらには、「ドコモではこうやっているのだから、この通りやるだけでも十分なんだ、これを参考にすれば、自社でもクラウド活用が可能なんだ」と、社内を動かすためのツールとして活用している企業もあるそうだ。オンプレミスからクラウドへシステムを移行させる際の手順書としても活用できるため、検討期間が大幅に短縮できた企業もあった。

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