エラーに野良ロボに……RPA導入、かくも現実は厳しかった リクルートテクノロジーズが歩んだ「試行錯誤の道」RPA導入のつまずきポイントを指南(1/3 ページ)

業務現場の生産性を高める手段として注目されているRPAだが、その運用は一筋縄でいかない部分も多い。今や業務の自動化に成功しているリクルートテクノロジーズも実にさまざまな壁に直面し、今でも試行錯誤を続けているという。

» 2018年11月09日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

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 業務現場の生産性を高める手段として熱い視線を集めているRPA(Robotic Process Automation)だが、その運用は一筋縄ではいかないことも多い。場当たり的な導入をすると、コストがかさむだけでなく、エラーで止まったり異常な動きをしたりするロボットのメンテナンスに追われるはめになる。そんな状態では業務プロセスの見直しが進むはずもなく、せっかくの導入が裏目に出てしまうことにもなりかねない。

 今、RPAによる業務の自動化に成功している企業は、どのような試行錯誤を重ねてきたのか、そこからどんな知見を得て運用を改善しているのか――。2018年9月19日、ITmediaエンタープライズ編集部主催のイベント「実践的デジタルレイバー導入カンファレンス RPA、AI、botで働く人の能力を開放せよ」が開催され、RPAやAI、botなどの活用にいち早く取り組む企業の事例や、デジタルレイバーを取り巻く最新事情が紹介された。

 本稿では、リクルートテクノロジーズのITエンジニアリング本部 データイノベーション推進部でシニアマネジャーを務める野川幸毅氏による特別講演を中心に、デジタルレイバー関連の商材を扱うベンダー各社の取り組みを紹介する。

リクルートテクノロジーズが歩んできた「RPA導入、試行錯誤の道」

Photo リクルートテクノロジーズのITエンジニアリング本部 データイノベーション推進部でシニアマネジャーを務める野川幸毅氏

 特別講演に登壇した野川氏は、同社が現在進めているRPAの導入と運用の実態について説明した。

 リクルートテクノロジーズは約1年前に、社内に「業務自動化グループ」を立ち上げ、RPAを中心としたデジタルレイバーによる業務の自動化と効率化に取り組んでいる。その成果は着実に表れており、対象業務(年間1.7万時間)の50%で自動化を達成。また、作業時間帯が早朝に固定されていた業務を自動化することで、働き方改革の効果も得られているという。

 しかし、成果を出すまでにはさまざまな試行錯誤があり、今でもよりよい開発と運用のための手法を模索しているという。そんな中で得られたノウハウの1つとして、野川氏は「企画段階での検討の重要性」を挙げる。

 「RPAを導入する際には、まずは企画段階で『どの業務を自動化の対象とすべきか』を慎重に検討する必要があります。具体的に言えば、導入の目的をきちんと定義し、その目的を現実的に達成できる業務を選ぶべきです。逆に、導入の目的が曖昧なままプロジェクトをスタートした結果、途中でRPAの導入自体が目的化してしまい、当初意図していた効果がなかなか得られなかったケースもありました」(野川氏)

Photo RPAの導入時には、自動化の目的を明確にする必要がある
Photo 目的を現実的に達成できるかどうかも見極める必要がある

 RPAの実装段階においても、幾つかの壁に直面したという。最大の壁が「開発者の業務理解不足」だ。もともと人手で行っている業務は暗黙知で品質を担保していることが多く、それをシステム要件に落とし込むのは極めて難しい。こうした作業をRPAで代替するためには、開発者が業務の内容をしっかり把握することが大事だという。

Photo 開発者が業務について理解することが重要
Photo ツールだけでなく、開発技術についても把握する必要がある
Photo パーツを共通化したり、開発基準を作ることで、質を担保しつつ開発工数を削減できる

 また、「RPAは簡単に実装できる」といううたい文句に踊らされることなく、開発担当者が一般的なシステム開発の手法をきちんと理解していることも重要だという。開発経験が不足していると、異常系処理に対するケアが不十分で、結果的に「しょっちゅう止まるロボット」ができてしまったり、ロボットが参照する先のシステムのアップデートに追随できないといった問題が起こりやすい。また、開発をスムーズに進めたり、工数を抑えるためには、開発標準を確立しておくことも重要になる。

 さらに運用フェーズにおいても、あらかじめ考慮しておくべきポイントが幾つかあり、特に気を付けたいのが「リリース後のエラー」だと野川氏は指摘する。

 「予期せぬデータが入力されたり、イレギュラーなポップアップ画面が表示されたりすると、RPAは人とは違って柔軟に対応することができず、エラーで止まってしまいます。リリース前にどれだけテストしても、こうした予期せぬエラーの発生は避けられないので、これを前提とした運用体制を築いておくことが重要です」(野川氏)

 リクルートテクノロジーズでは、こうしたエラーに対処するために、リリース後にも一定期間は開発者を確保するなど、さまざまな対応を図っている。また、エラーの原因調査をスムーズに行うために、ログやドキュメントなどをきちんと整備しておくことも大事だという。さらには、エラーの発生によって業務が止まってしまうリスクをあらかじめ評価し、その許容度に応じて冗長化や人手によるカバーの計画を立てておく必要がある。

Photo 運用フェーズを見据えてあらかじめ考慮すべきポイント

 「私たちも、当初はこうした対策を取らなかったために、運用コストが膨れ上がってしまいました。その反省を踏まえ、現在ではログやドキュメントをきちんと残し、開発・運用手順も標準化しました。その結果、運用にかかるコストは半減し、問題に対応する際の判断も早くなりました。これからRPAを導入する方々にとって、こうした経験が何らかの参考になればと思います」(野川氏)

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