AI Labは、現在も企業とのプロジェクトを複数、並行して進めている状態だ。興味を持つ企業は多いそうだが、実験を進めるに当たっては、越えなければいけない壁も少なくない。
まずは「産学連携」という組織体に起因する問題だ。大学が絡むからには“研究”の側面が必要になる。要するに、新規性や探求するポイントがなければ、プロジェクトとして立ち上げるのは難しくなる。
しかし、サービス開発という観点で考えれば、必ずしも新技術や新規性が必要なわけではない。研究テーマを見いだせるまでは、大学と連携するプロジェクトを増やすのは難しいのだ。そこでAI Labでは、企業との実証実験は、サイバーエージェントのリソースを中心に行い、得られた知見やフィードバックを大学側に共有し、研究テーマを作り出すという方法を採っているそうだ。
「4℃さんとやった事例はいい例ですね。サイバーエージェントとしてやっていた実証実験の結果を石黒研に展開したところ、新たな知見が引き出されて、さらに論文の作成へと進んでいきました」(馬場さん)
一方で、研究に寄り過ぎても、企業との共同実験は難しくなる。
実験で認知科学や社会心理学の知見を活用する際、扱うものが定性的であるが故に、その結果をビジネスに生かしにくいのだ。ビジネスに展開するためには、定量的なデータが求められるが、アンケートなどの定性情報でなければくみ取れない結果もある。「量的な評価が分かるよう、実験の段階できちんと設計することが重要」だと馬場さんは話す。
とはいえ、仮に思ったような結果が出たとしても、その結果を導いた要因が対話にあったかどうかを判断するのは難しい。また、使うツールにロボットがあれば、「ロボットに対しては人間より甘くなりがち」「興味関心から使ってしまう」といったバイアスが入る可能性もある。それを除かないと、正確な計測結果にはならないのだ。
さらに、さまざまな実証実験を進めていても「人が信頼したくなる、思わず信頼してしまう対話エージェント」が実用化するまでには、まだまだ多くの課題があるという。
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