D/Pをうまくやることは、簡単ではない。しかし十分な準備と訓練によって、この技術を身に付けることは可能だ。
D/Pのための準備とは、これまでも述べてきたように、まずは提案仮説を十分に検討することである。これをプロポーザル・レビュー(PR)によって、ロジックの追究、ファクトの追究、顧客の意向を超える水準の追求を行う。そのうえでメッセージストリームを検討することで、何をどんなメッセージで、どんな順番で話すか検討を行う。
D/Pに向かう前には、D/P計画を立て、全体の落とし所、今回のD/Pの落とし所、受注課題の確認、D/Pステップごとの、論点や確認事項、落とし所とそれに向けてのメッセージと提示するファクトを整理する。そして顧客にシステムビジョンを示すための簡単な資料の作成を行うのである。
D/Pではディスカッション相手の知見を引き出して、事前に用意した提案仮説のズレや穴をディスカッション中に補完・拡充するという技を使う。相手の知見を引き出すには、相手の論理を聞くのではなく、ファクトを聞かねばならない。論理はファクトを意味解釈して展開し、そこから得るのである。しっかりとファクトを聞くこと自体にも訓練が必要であるし、聞き出したファクトを意味解釈することにも訓練が必要である。
例えば、システムビジョンとして「資材業者からの納入を小ロット化」「多頻度化」することを示した場合に、資材業者側の物流費がかさみ、部品コスト増となるという課題が考えられる。この課題に対する解決策について、用意した提案仮説では十分なものがない場合に、D/Pでは顧客の知見を借りて拡充を行うのである。部品コスト増の課題くらいは何もいわなくても顧客が気付くかもしれない。気付かなければこちらから「資材業者側の物流コスト増が部品コスト増につながる脅威はありませんか」と問い掛ければよい。顧客がその課題を認識したら、次のような問い掛けによって具体的な情報を得るのである。
具体的な質問によって具体的な情報を得ることで、課題自体を「物流費増」という抽象的レベルから、「業者ごとの輸送回数増による輸送費の増加」「梱包頻度増加によって梱包作業の生産性低下」などの具体的レベルにしていく。層別し細分化して具体的に見ていくことで、ダンゴのままでは解決策の見えないものも、解決策が見えてくるのである。この例では課題を具体化することで、次のような解決策が見えてくる。
このような解決策を、顧客と協力して創造することができる能力を磨いておくことが重要である。
次回は、これまで解説した技術を組織に定着させるための推進方法として、どのような体制を整備すべきか、その体制のミッションは何かについて解説を行う。
大上 建(だいじょう たける)
株式会社プライド 常務執行役員 チーフ・システム・コンサルタント
前職で上流工程を担当する中、顧客の利用部門は必ずしも「開発すること」を望んでおらず、それを前提としないスタンスの方が良いコミュニケーションを得られることに気付き、「情報の経営への最適化」を模索することのできる場を求めてプライドに入社。株式会社プライドは、1975年に米国より社名と同名のシステム開発方法論の日本企業への導入を開始して以来、これまで140社余りの企業への導入支援を通じて、情報システム部門の独立自尊の努力を間近に見てきた。
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