第2回 事例に学ぶビジネスブログの設計ノウハウビジネスブログはじめの一歩(2/2 ページ)

» 2007年09月18日 12時00分 公開
[中山順司,シックス・アパート株式会社]
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求められるブログの費用対効果

 「目的を持つこと」はブログで失敗しないための必要条件ではありますが、それで十分ということではありません。目的以外に求められるのが、「費用対効果」というものです。

 例えば、Webでの広告出稿や検索連動型広告における費用対効果は、「販売・資料請求・問い合わせなどへのコンバージョン」「ページビューによる告知・目的とするサイトへの誘導」といった客観的なデータでその効果を検証することができます。

 ブログもビジネス活動の一環である以上、投資するコストに対してどれくらいの効果が見込めるのか、どんな成果を得られるのかが求められるのは当然でしょう。「ビジネスブログに効果があることは会社の総意ではあるのだけれど、客観的な費用対効果に落とし込めていない」……そんな理由で導入に踏み切れない、あるいは検証中のままのケースもあります。

 ただ、ビジネスブログもすべてを予測することは無理ですし、予想してもそのとおりにコトは運びません。それに、表れた効果とブログの因果関係を証明するのも難しいのが実情です。そんな中、うまく費用対効果を算出して社内の合意を得た、ハンバーガーでおなじみの日本マクドナルドの例を紹介しましょう。

 日本マクドナルドでは昨夏、新型サンドイッチ販売開始に先立ち、その製品を紹介する期間限定ブログを立ち上げました。その際、ただブログを作るだけではなく、調理キットを車載した専用バンで日本全国の試食キャラバンの旅に出て、行く先々での出来事をリアルタイムにブログでレポートするという大掛かりなキャンペーンを行ったのです。

 TVCMを打つことに比べれば安いのでしょうが、たった2週間強のキャンペーンのために普通のブログとは比べ物にならないコストを費やしたわけで、思い付きで通る企画ではありません。

 企画の発案者は社内説得のため、TVなどメディアへの露出効果を予測し、広告出稿した場合の費用に換算することで費用対効果を可視化させ、社内の理解と同意を得ることができました。実際にキャラバン出発の模様はTVニュースで放送され、さらに赴いた各地の地元TV局にも取り上げられることになり、キャンペーンは大きな成功を収めました。

データや金額では割り切れないブログの価値

 このように、ブログの効果を「広告効果に換算する」のも、費用対効果を可視化させる1つの方法です。もちろん、すべてのビジネスブログが同じ目的を持つわけではなく、またこの手法がどのブログにも当てはまるわけではありません。ただ、費用対効果を算出するアイデアとしてこういう手法もあるということはお分かりいただけたと思います。

 実はここで最もお伝えしたいことは、ブログの効果を事前に測定する手法を知っていただくことではなく、ブログの骨子を設計するに当たって「目的」を定め、「費用対効果」をシビアに見極めることは重要であること、そして同時にデータや金額では割り切れない価値があるという事実です。

 数値化することだけにこだわってしまうと、ブログの見えない効果を見落としてしまう可能性があるのです。それは、ブログの持つ親しみやすさや消費者に近い立ち位置から発せられる情報による、心理的ハードルを下げる効果です。つまり、「書き手と読み手のコミュニケーション」です。

企業のコミュニケーション能力を高めるべき時代

 長い年月をかけて築いた信用が不祥事1件で崩れ去るといった事例が近年多発する中、消費者の企業をチェックする眼も厳しさを増し、信頼感を勝ち取ることが難しくなっています。

 手っ取り早く結果を出したい、目に見える効果が欲しい、ブログをするなら誰しもこう思いますし、ビジネスブログならなおさらのことです。投資を回収してプラスに持っていきたいと考えるのが自然でしょう。

 とはいいつつも、信頼関係を築くには時間と対話をかけた地道な努力が必要です。友人を作る場合、赤の他人に初対面で心を許すことはなく、まず「知人」からスタートし、徐々に関係を深めて友人とし、やがて親友へと変化していくように、プロセスを省略することはできません。

 自社の損得に直結する「目的」と「費用対効果」という短期目標を意識しつつも、読者(消費者)との継続的コミュニケーションによる信頼関係の構築という長期目標を忘れないでいただきたいと思います。企業の信用力の有無、あるいは強弱がビジネスを大きく左右する時代だからこそ、企業のコミュニケーション能力が問われているのです。

筆者プロフィール

中山 順司(なかやま じゅんじ)

シックス・アパート株式会社 マーケティング シニアマネジャー

愛知県出身。携帯電話キャリア、ITベンチャーを経て、現在はブログ・ソフトウェアベンダーのシックス・アパートでマーケティングに従事。これまで一貫してマーケティング業務に携わっている。


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