下図はIT経営実践を成功に導くフレームワークの概要です。
わたしはIT経営の実践には「内向きのIT化」と「外向きのIT化」と「のりしろ機能」の融合が不可欠と考えています。
通常、IT経営というと「内向きのIT化」を指しますが、前述の通り、それだけでは経営全体から見ると片肺であることは否めません。そこで、「外向きのIT化」という概念が必要になるのですが、ここがIT経営実践のボトルネックでした。
一般的なシステム開発では、情報システム部門やIT企業の担当者が営業部門にヒアリングし、機能要件を固めて仕様書を作り上げます。この仕様書の不出来こそ諸悪の根源であり、問題が頻発している部分です。例えば、仕様変更が延々と発生していつまでたっても仕様書が完成しないとか、ユーザー側でいろいろな要望を出したのにほとんどが無視されて、結局は誰も満足しない中途半端なシステムで使い勝手が最悪といった問題が起きているわけです。
この問題の本質は、次の2点に集約されると考えています。
詳しい説明は次回以降の「ノウハウ/テクニック編」に譲りますが、「外向きのIT化」は、上述の問題を解決すること──具体的には、1.営業が提供する機能のうち、IT化により業務効率性と利益最大化を実現できるオペレーション機能を営業が主体となって開発すること、2.これまでの二重入力や制約の多い入力画面を排除し、Excelで管理するデータがそのまま経営報告につながるイメージを具現化することを重要視しています。
このようにいうと「『外向きのIT化』は確かに理想だが、どうやって実現するのか?」という声が聞こえてきそうです。これらの実現に必要不可欠なのが、以下「のりしろ機能」です。
こちらも詳しい説明は次回以降に譲りますが、「のりしろ機能」は、「外向きのIT化」である程度の自由度を認める一方で、「内向きのIT化」につなぎ込む際に問題となるデータの非整合性や機能不足などの問題を吸収することを目的としています。
ところで話は変わりますが、連載2回目の最後に、「ユーザー企業が変わってきたとき、IT業界の皆さんはどうすべきなのでしょうか?」と問題提起をしました。それに続けて、今回は「IT経営実践フレームワーク」をご紹介いたしましたが、皆さんには何が見えたでしょうか?
わたしは、今後エンドユーザーは必然的にこの考えを取り入れざるを得なくなると確信しています。というのも、ある企業がIT経営の導入に成功し、競争優位に立てば、当然競合他社も追随します。追随もせず、独自の手も打たない企業は淘汰されてしまうでしょう。革命は波及するのです。
IT経営実践フレームワークで実現する機能は、Excelなどの簡単なツールを使って営業主体で開発できる仕組みにしましたので、わたしはこのフレームワークとそれをサポートするツールが普及すれば、営業部門が主体性を発揮して、ある程度の仕組み作りを行う時代が再来すると感じています。そういう時代の到来を受け、IT業界はどう対応するのでしょうか?
答えはやはり「のりしろ人材」と「のりしろ機能」にあるのではないでしょうか?
この部分は唯一知識集約型機能として残る部分ですので、ここに存在意義を認めた企業のみが生き残れることは容易に推察できますが、皆さんはどう思われますか? そして、それまでに皆さんはどういう準備をすべきなのでしょうか? そう遠くないタイミングで答え合わせの時がやってくるでしょう。
▼著者名 齋藤 雅宏(さいとう まさひろ)
ライト・ハンド株式会社
1992年に三菱商事(株)に入社し、システム開発部に配属される。数百万ステップ規模の会計系基幹システムの開発・保守に従事。その後、食品VANの開発、ECサイトの企画・開発、新規事業の立ち上げ、事業投資先の経営支援、内部統制構築など、各種案件を経験する。これらの経験をノウハウ化すべく、2001年10月から2004年3月まで東京工業大学 社会理工学研究科経営工学専攻の非常勤講師に就任し、事業創造論を学部生および院生に指導。2007年、三菱商事(株)退社後は、ベンチャー企業へのハンズオン型経営支援(支援例:(株)クエスト・ワン)を通じて、『IT経営実践』の普及をライフワークとしている。
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