“きずなを結ぶ”新たな手法「エンゲージメント」Web 2.0マーケティング・イノベーション(4)(2/2 ページ)

» 2008年08月26日 12時00分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]
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広告効果指標としての可能性

 一方で、いまエンゲージメントが注目されているのは、消費者側の要請だけではなく、広告主や広告エージェント側の思惑も作用している。視聴率に基づく広告価値が低下し始めたため、それに代わる新しい広告効果指標を求めていた中で、“エンゲージメントをベースとした広告効果指標”に白羽の矢を立てたのである。

 具体的には、あらゆるコンタクトポイントで発生する消費者の心理・行動を指標化し、Webを活用して、購買に至るまでの多様な行動を測定する、といったものである。視聴率やインプレッションといった従来の広告効果指標は、広告エージェントが広告主に対して一方的に発信するものであったが、こちらは広告に対する消費者の実際の心理・行動を、ダイレクトに把握できる可能性がある。

 そうした動きの一環であろう。2006年3月、米国の広告調査協会(Advertising Research Foundation)は、テレビCMのGRP(延べ視聴率)やインターネット広告のインプレッションなど、従来の広告効果指標に代わる、新しい定量指標の策定を提唱し始めた。同協会では、エンゲージメントを標準的な広告評価指標とするべく、業界全体へ働き掛けることを公的に宣言している。

 ちなみに、エンゲージメントの定義・指標化作業には、広告調査協会のほか、全米広告主協会(Association of National Advertisers)、米国広告業協会(American Association of Advertising Agencies)も参加しているという。

 すなわち、米国では広告の業界団体主導で「エンゲージメント・ベースの新たな指標整備」に取り組んでいることになる。当然、これらの関連団体、加盟企業、大学研究機関なども、エンゲージメントに関係した指標や数値モデル化のための研究会を立ち上げ、検討・実地テストに参加していくことだろう。

 とはいえ、ブログのコメントやトラックバック数などの、感情的な側面を持つ消費者行動をどこまで定量化できるのか、それによって「エンゲージメント・ベースの新たな広告効果指標」をどこまで実効化できるのか、見ものではある。

 しかし、連想・引用・隠喩を活性化して、パーソナル化された「ブランドの意味」を顧客と共同で作り出したり、プロスペクト(顧客や潜在顧客)を引き付けられるよう、コンテクスト(文脈)でブランドの魅力を増幅したり、といった際にも、強力な手掛かりとなる「エンゲージメント・ベースの広告効果指標」は、まさにWeb 2.0やソーシャル・マーケティングで追求する目的とシンクロするものである。

実効性の証明はこれからだが、期待は大きい

 マイクロソフトは2008年2月、広告キャンペーン効果測定で「Engagement Mapping(エンゲージメント・マッピング)」という呼称の新手法(ベータ版)を発表したが、これもこうした流れの一環である。

 同社では、「インプレッションやクリックで広告測定する時代は終わりを告げようとしており、今後は広告を見た者のうち、どれだけの人間が実際の行動を起こすかに焦点を当てる。ある人がWeb広告を見た回数を追跡し、それと行動との間の相関関係を割り出す。広告フォーマット(リッチメディア、動画など)や閲覧者(消費者)が、その広告を見て行動を起こすまでのオンライン経路、頻度などの相関関係=影響度を総合的に判断し、エンゲージメント指標を割り出す」といった説明をしている。

 米広告調査協会の取り組みにせよ、マイクロソフトが編み出したとする新手法にせよ、「エンゲージメント・ベースの広告評価指標」は、陳腐化が進む現在の広告効果測定手法を塗り替えんとする動きを象徴するものである。むろん、過渡期の手段である以上、必ずしも理論的に実効性を証明できるものではないかもしれない。しかし今後、エンゲージメントの在り方を巡って、論議が高まっていくことは間違いないだろう。

筆者プロフィール

森田 進(もりた すすむ)

経営・ICTコンサルタント。ストラテジック・リサーチ代表取締役、「産・学・官リサーチセンター」主宰、国際印刷大学校客員教授。バランスト・スコアカード、ITガバナンスをはじめとする各種経営・公共モデルの導入支援、オントロジ工学、セマンティックWeb、Webサービス論の研究および白書監修。そのほか、SaaS、ナラティブ・テクノロジなど多岐にわたって探求を深める。著書に、『新たなビジネスモデルの覇者ASP』『複雑適応系と電子市場・電子取引』、訳書に『Webサイト完全マスター』ほか。論文に「eラーニングと物語論(ナラティブス)」「バランス・スコアカードの発展、枠組みの再構築」ほか多数。

産・学・官リサーチセンター: http://www.x-portals.com/


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