谷田は先日突然坂口が家に訪ねてきた一件があってからというもの、「坂口と一緒に過ごしているときは、少しは支えることができる」と多少自信を深めていた。
しかし、現実にはいつも一緒にいられるわけではない。また、坂口の仕事上の悩みについても、職場が違うこともあって、細かい部分までは正確に理解できないことにもどかしさを感じていた。
そして、「どうすれば、もっと坂口のことをうまく支えることができるのだろうか」と悩んでいた。そこで、先日のクリスマスパーティで世話になり、その後も何かと相談に乗ってもらっている松嶋に、「ちょっと相談に乗ってほしい」と思い切ってメールすることにした。
すると、すぐに電話がかかってきた。
松嶋 「それじゃ、一緒に食事でもどう?」
谷田 「はい、ぜひ! お願いします!」
松嶋 「そうだ。最近、仕事の関係でサンドラフトの加藤さんをサポートするように頼まれたの。ちょうど、加藤さんと食事でもと考えていたところなので、一緒にどう?」
谷田 「え〜? (ちょっと加藤さんには聞かれたくないんだけどなぁ、と思いつつ)加藤さんとは、実は同期なんです」
松嶋 「それじゃ、ちょうどいいわね! 決まり!」
ということになり、3人で夕食をすることになってしまった。
そして当日の夜、新宿のいつもの高層ビルのレストランで、3人はワインを飲みながら楽しく会話を弾ませていた。
松嶋 「加藤さんは谷田さんと同期だったって聞いたけど、ときどき会ったりしてるの?」
加藤 「入社当時は研修とかも一緒でした」
松嶋 「それじゃあ、結構仲が良かったんだ」
谷田 「そうですねぇ。当時は一緒に旅行とか行ったりしてたよね!」
加藤 「うん。でも、その後は職場が離れちゃって、最近は会うことも少なくなっちゃってるよねぇ……」
谷田 「そういえば1年くらい前、社内誌でインタビューを受けたことがあったね」
加藤 「そう。そのとき、谷田さんがすごく美人になってて、びっくりしたのを覚えてるよ!」
谷田 「え〜!」
すると、褒められることに慣れていない谷田は、うつむいて恥ずかしがってしまった。
加藤 「いや、谷田さんは入社当時から美人だったですけど……。去年、久しぶりに会ったら、何かちょっと特別に輝いていたんだよねぇ」
加藤の鋭い指摘に内心ドキリとした谷田は、必死に話題をそらそうとした。
谷田 「ところで最近、加藤さんは伊東さんと一緒に仕事をしているんだって?」
加藤 「うん。広報の仕事と兼務で業務改善の仕事もやってくれということになって、結構伊東さんと一緒に、製造部や物流センターにヒアリングに出掛けてるの」
松嶋 「ふふふ。加藤さん、伊東さんの話をしていると楽しそうよ。伊東さんてどんな人?」
加藤 「とにかく実直な人で、とてもいい人だと思います」
谷田は伊東が頑張っていることに一安心しながらも、坂口の様子も知りたくて加藤に話を振った。
谷田 「加藤さん、坂口さんとは一緒に仕事してないの?」
加藤 「プロジェクトのミーティングとかでは一緒だけど、ヒアリングとかは伊東さんと一緒のことが多いから、それほど接点がないかなぁ」
松嶋 「伊東さんとは、今回初めて一緒に仕事をすることになったんでしょ?」
加藤 「いえ、実は1年前に一度、伊東さんとはお会いしているんです」
松嶋 「え? そうだったの? どういうきっかけで?」
そして加藤は、伊東と会った時のことを思い出しながら話し始めた。
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