顧客の囲い込みに、ITが不可欠となる教育業IT担当者のための業務知識講座(9)(2/2 ページ)

» 2012年05月09日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
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教育業における主な業務 〜綿密な情報管理が不可欠〜

 教育業の業務は学校や塾、通信教育、家庭教師など、その業態によってさまざまですが、ここでは社会人にとって身近で想像しやすい英会話学校をモデルに、その主な業務を見ていくことにします。

■学期編成

 教育サービスの基本単位として、「年」「半期」といった期間で学期を設定しています。この学期ごとに「何を(科目)、いつ(期間、時間割)、どこで(教室)、誰が(講師、対象者)、いくらで(学費)」といった教育サービスの基本設計を行います。前期の内容が好評であれば今期も同じ内容になるかもしれませんが、通常、前期の反省点や市場ニーズ、他社の動向などを考慮してサービスに改善を施しています。

■科目管理

 教育業のコア業務が科目管理です。科目はいわば「商品メニュー」であり、そのラインナップの善し悪しが売り上げやコスト、利益に直結しています。小売店や飲食店などと同じように、あらゆる商品をラインナップする「オールラウンド型」を採るのか、あるいは「専門特化型」とするのか、自社の強みや他社との関係などを考慮しながら検討しなければなりません。また、売れ筋科目と関連する科目の場合、たとえ採算が合わなくても、「最少催行人数を設定しての条件開催」や「オーダーメイド対応」といったことも検討し、かけるコストとのバランスを取りながら顧客満足を追求します。

■教員管理

 専任の講師が必要となる科目では、きちんと教えられる人材を確保する必要があります。また、教員の質が顧客満足に大きく影響することから、教員の能力や勤務態度、学生との関係など、教育の品質をチェックするための情報管理が不可欠となります。大学などでは、必須科目である英語の授業を毎日受講可能とするために、何人もの非常勤講師を雇用している例もありますが、そうした場合、教員の品質のバラツキが問題になるケースが少なくありません。そこで品質確保のために、オブザーバーによる授業参観や学生アンケートを行ったり、教員の選抜・講習といった品質向上活動を行っている例も数多く見られます。

■教材管理

 教材は、教員が指定する場合と、学校側が指定したものを使用する場合があります。

教材も教員と同様、顧客満足に大きく影響します。特に、通信教育やeラーニングの場合は教育サービスの品質そのものとなります。学生にとって分かりやすく能力向上に有効であることが最も重要であるため、質の高い執筆者の確保や、内容の正確性を担保するためのチェック強化などが不可欠となります。また、教材は製造、仕入れ、納品、在庫管理といった「もの」としての一連の管理が必要であり、特に欠品と不良在庫を予防する必要があります。

■学生管理(学籍管理)

 学生管理(学籍管理)で管理すべき情報は、大きく分けて「顧客情報(学籍番号、氏名、連絡先、生年月日、写真、連絡先、家族構成、契約内容、支払状況など)」と、「学生情報(受講履歴、出欠状況、成績状況、対応履歴など)」の2つからなります。学生情報は「修了判定」や「クレーム対応」「受講証や証明書の発行」など、教育サービスを適切に提供するために利用します。また、受講者・修了者の受講履歴や成績状況などから関連カリキュラムのリコメンド、プロモーションを行うなど、販売促進にも活用しています。

■クラス編成

 学校や塾では、教室の大きさや設備の数など物理的制約があるため、クラス分けが必要となります。通信教育やeラーニングのように物理的制約がない場合でも、受講者がストレスなく利用できるよう、能力別、受講開始時間などに応じたクラス分けが求められます。こうしたクラス編成情報を管理するためには、クラスと生徒のひも付けだけではなく、1つの科目に複数のクラス、1つのクラスに複数の教師・教材・教室がひも付くことも考慮しなければなりません。

■出席・成績管理

 修了判定に必要な成績付けは、出席状況やテスト結果などのデータを基に行います。特にテストの実施においては、コンテンツ(問題と正解、解説)作成や、配布、回収、採点、評価付けといった作業も必要になります。テスト結果は、受講者が学習成果を確認する上で役立つ一方で、弱点強化のためのカウンセリングを勧めるなど教育サービスを充実させる点でも意義があります。

■募集

 募集には新規で学生を募集することと、新たに編成したクラスに既存の学生を募集するという2つのパターンがあります。前者は営業活動そのものであり、後者は「教師」「教室」といった教育資源を最適化し、売り上げ効果を最大化するための活動と言えます。特に教育資源が限られている場合、宣伝広告や営業活動も制限されるため、先着順や抽選、学内優先、さらには選抜試験といった条件も付与されることになります。逆に辞退者が出ることもあるため、補欠指名や繰り上げ合格といった処置も含めて資源の最適化を図っています。

■サポート

 一方的な授業を行っても学生がついてこられなければ意味がありません。そのため、質疑応答や個別指導、場合によってはクラス替えといったサポート活動も必要になります。また、奨学金や分割払いなど、学費面の支援や、転勤先への転校や多忙期の休学制度といった継続支援はもちろんのこと、カウンセラーによる悩み相談や学生同士の情報交換といったメンタル面でのケアも求められます

教育業におけるIT利用上の課題

 以上のように、教育業では綿密な情報管理が大きなポイントとなります。特に学生数などの規模が大きくなるにつれて、事務処理の負担が大きくなるため、受講者を維持するためには校務システムなどのIT利用が不可欠となります。また一方で、クラウドコンピューティングやソーシャルメディアといった新たな情報技術を取り入れて顧客サービスを強化し、学生の囲い込みを図っていくことも求められます。このように守りと攻めの両面からのIT利用が求められているのが、昨今の教育業におけるIT事情と言えます。以下では、教育業における主なIT利用上の課題について解説しましょう。

■校務システム

 教室や教員、紙の教材といったリアルな教育資源を必要とする教育業者にとって、「どの程度の受講者が集まるか」という需要予測と、「集まった受講者をいかにクラス編成するか」という最適配置が収益を伸ばす上で重要なポイントとなります。従って、以上で挙げたような学籍管理、成績管理、教材管理などを確実に行った上で、その情報を基に、教材の在庫や空き教室などの無駄を極限までなくすことが経営課題の1つとなります。この点で、タブレットPCによる教材のデジタル化や、インターネット講義による教室のバーチャル化も、リアルな教育資源による物理的制約をなくすものとして期待されています。

■学習管理

 質の良い教材と教員の組み合わせが、教育サービスの品質のコアとなることは今後も変わりありませんが、同じ科目の教材・教員であっても受講者ごとに相性があります。例えば成績アップのための助言についても、受講者1人1人の能力の違いを考慮した対応をすることが望まれます。そこで注目されているのが統計解析などの傾向分析です。テストの合計得点だけではなく、設問のタイプごとにその受講者の得手不得手を分析するなどし、その結果をきめ細かな学習指導に生かすことが期待されています。

■インターネット利用

 インターネット上では、有料のeラーニングにとどまらず、お試しサービスや無料のコンテンツ配信などを提供している例が数多く見られます。また、Facebookなどソーシャルメディアを利用して、既存の顧客同士や、既存の顧客と見込み顧客間の情報交換の場が提供されているケースもあります。もはや単なる宣伝広告だけで集客する時代は過ぎ去り、“いかに好ましいクチコミを生み出すか”が重要になりつつあるのです。

 インターネットを利用した情報発信や、顧客との対話の仕組み作りに消極的な教育業者は、市場から見放される可能性も否定できません。冒頭で「少子化といえども底堅い需要がある」と述べましたが、教育業者にとって、製造業や小売業などと同様、積極的にITを活用して顧客との距離を縮めなければ、生き残れない厳しい時代になっていると言えるのではないでしょうか。


 次回は、医療介護サービスの業務を紹介します。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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