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» 2012年06月12日 00時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(93):災害対策、コスト削減、システム改善は全て同じ問題

昨年、注目されたBCPやワークライフバランスというテーマは、「収益に貢献できるIT」「システム管理コスト削減」といった問題と全く別の問題というわけではない。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

危機管理型クラウド

ALT ・著=戸村智憲
・発行=税務経理協会
・2012年5月
・ISBN-10:4419057912
・ISBN-13:978-4419057916
・1800円+税
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 「テレワークに向いているものや向いていないものをあらかじめ区分しておいて、平時から週に何日はテレワークをする日というかたちで、危機対応を念頭に置いたテレワークを実践しておくべきだ」という議論もあった。しかし、単に災害対応としてのみテレワークを行うのではなく、「ワークライフバランスとITのディザスタ・リカバリの訓練を兼ねて、テレワークを日常的に行っていただきたい」――。

 本書「危機管理型クラウド」は、「クラウド化によって場所に縛られないIT環境を構築する」ことで、「自社ビルが火災や地震、水害などで倒壊したり全滅したりしても、一部の業務端末が被害を受けるだけで」済み、「インターネットにつなげる環境を整えれば」、それまで通りのIT環境をそのまま利用できる「危機管理型クラウド」の活用を推奨した作品である。冒頭のように、災害時に備えたイレギュラーな施策として危機管理に取り組むのではなく、「場所に縛られずに仕事ができる」クラウド環境を利用し、ワークライフバランスなどの施策をうまく組み合わせて、災害対策を日常に浸透させることが重要だと訴えている。

 特に筆者が注目しているのが、災害対策におけるBYOD(Bring your own device)とスマートデバイスの有効性だ。例えば、「ノートPCの持ち出し禁止」としている企業も多いが、万一、自社ビルが倒壊してしまえば「システムだけではなく、そのシステムを操作するための業務端末すら全滅してしまう」。

 しかし、確実なセキュリティ体制の下、従業員がiPadなどの私物端末を使って「業務システムに安全にアクセスし、出張先でも地球の裏側からでもインターネットを経由して業務を行うことができれば」、日常業務の機動性が向上するとともに、万一、自社ビルが被害を受けても事業を継続できる。特に「安否確認や情報共有などをクラウド型のグループウェアやメールなどで行えれば」、「場所に縛られない命を大切にする働き方・危機対応が可能になる」と説いている。

 一方で、ただ闇雲にクラウドを勧めているわけではない。実際、クラウド黎明期には、「クラウド化すれば安くなるはずだと思ったところ、実際にはクラウドで利用するID数によって、オンプレミス対応の方がIT運用コストが安かった」ため、「クラウドからオンプレミスに戻した企業もあった」。

 従って、「IT保守運用要員の固定費化された人件費」や「データのバックアップ、リストアに掛かるコスト」などを全て洗い出し、オンプレミスとクラウドの運用コストは、「どちらが安いのか、またどちらが災害対応の観点から望ましいのか、あるいは復旧復興においてどちらがより望ましい対応なのか」を、慎重に検討すべきだと説いている。その上で、「オンプレミスばかりにこだわるのではなく、クラウドも活用し、クラウドとオンプレミスのいいとこどりによるハイブリッド型クラウドを活用していく」ことが、「IT環境の健全性確保や災害時の対応、スムーズなディザスタ・リカバリを実現する重要なキーポイント」になると訴えている。

 昨年の東日本大震災以降、しばらくの間、BCPやワークライフバランスといった言葉が多くの企業に注目されたが、最近はめっきり聞かれなくなった。一方で、「ITシステムの運用管理コスト削減」「収益に貢献できるIT」といったテーマは、依然として企業の最大の関心事となり続けている。だが、これらは決して別々の問題というわけではなく、日常業務の効率化と、合理的なITシステムの在り方を考えれば、自ずと災害時にも強いIT基盤を構築することにつながる――本書を読むと、そうしたことをあらためて理解できるのではないだろうか。

 多くの話題を掲載しているため、やや散漫な印象も強いが、1つの話題を2〜4ページほどのコンパクトな分量に抑え、どこからでも読める構成している。少し空いた時間に、災害対策、ワークライフバランスという視点から、ITシステムの改善、効率化を探ってみると、思わぬ突破口が見出せるかもしれない。


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