“愛とIT”が、医療介護の品質を決めるIT担当者のための業務知識講座(10)(2/2 ページ)

» 2012年06月20日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
前のページへ 1|2       

医療介護業における主な業務

 医療介護の現場には、患者や要介護者を円滑かつ確実にケアするためのさまざまな業務があります。以下では、その中でも柱となる業務を紹介します。

医療における主な業務

■受付業務

 医療機関における受付業務には、初診(新患)受付と再診(再来)受付業務の2つがあります。初診の場合は、診察申込書の記入と保険証の提示を依頼し、患者情報の登録と診察券の発行を行います。再診の場合は、診察券を確認し、初診患者と合わせて順番に呼び出します。

■オーダー(指示)業務

 診察が終わった後、医師は検査や投薬、処方箋などを指示します。昨今、この業務では「オーダリング」と呼ばれる情報システムが利用されているケースが増えつつあります(詳しくは後述します)。

■カルテ管理

 カルテには、患者の基本情報の他、診療記録、看護記録、手術記録、検査記録などが記録されます。このカルテ=診療録は法定文書であり、紛失防止のためにカルテ表紙の正確な作成と分類保管が必要です。極めて重要な個人情報でもあるため、施錠保管など高度な秘密保護も不可欠となります。この他、診療報酬計算の基礎資料にも使われるため、カルテ管理は医療機関における活動の根幹をなすものと言っても過言ではありません。

■部門業務

 医療機関には、医師の他にも「コメディカル」と呼ぱれる、さまざまな職種の医療従事者が働いています。医療機関の部門としては、医師が診療を行う「医局」の他、看護師が働いている「看護部」、薬剤師が働いている「薬局」、検査技師が働いている「検査部」、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が働く「リハビリ部」、放射線技師が働く「放射線部」、栄養士が働く「栄養科」、ソーシャルワーカーが働く「相談室」、事務職員が働く「事務局」などがあります。こうした各部門が連携して、患者やその家族などのケアに当たっているのです。

■レセプト業務(医事会計)

 診察や検査、薬などに掛かった医療費は、点数ベースで計算された後、患者本人と、保険事業を運営している保険者に分けて請求されます。患者の自己負担金は金額換算されて診察終了後に請求され、保険者への請求はレセプト(診療報酬明細書)を通じて行われます。

■マネジメント事務

 病院事務では、以上のような受付業務やカルテ管理、レセプト作成といった医療事務の他に、人事管理や設備・物品管理、総務、財務管理といった一般的なマネジメント業務も行われています。特に、収益性の向上や医療事故の防止、クリニカルパス(詳しくは後述します)による質の高い医療など、経営改革に向けた取り組みの重要性が高まっています。

介護における主な業務

■ケアプラン作成

 ケアプランとは、要介護・要支援の認定を受けた高齢者の介護方針を、ケアマネージャがまとめたものです。このケアプランに計画された介護サービスが、介護保険の保険給付の対象となります。

■利用者管理

 日常生活上の注意事項や住宅見取り図など、介護する上で必要となる利用者情報を管理する業務です。医療機関におけるカルテ管理(患者の基本情報管理)に当たります。

■ケア記録

 利用者に対するケアサービスの実施結果を記録する業務です。ケア記録は介護報酬請求のベースとなるだけではなく、利用者の最新状態を管理するものでもあることから、次回支援時の参考にしたり、ケアプランの見直しのために使われたりします。

■レセプト業務(介護報酬請求)

 医療と同様、介護報酬は患者本人と保険者に請求されます。医療報酬とは異なり、点数ではなく、地域ごとに設定されている単位をベースに計算します。保険者への請求に使用する介護報酬明細書も、やはりレセプトと呼ばれています。

■アセスメントとモニタリング

 アセスメントとは事前評価のことですが、最初にケアプランを作成する際だけではなく、利用者の容態変化に伴い、それに合わせた要介護・要支援が再認定され、ケアプランを再作成する場合にも必要になります。その際、重要となるのがモニタリングです。モニタリングとは、介護サービスの実施状況を継続的に点検し、分析・評価することを指し、その結果はサービス内容の改善や、ケアプランの見直しのために使われています。

サプライチェーンの概念が、医療の質と効率をアップする

 以上のように、医療介護業にはさまざまな業務が存在しますが、それらに共通して求められるのは効率性、確実性だと言えるでしょう。

 もちろん、これらは一般企業でも求められるものです。しかし冒頭でも述べたように、医療介護業は人の命や生活にかかわる業務であるだけに、より一層高い次元でこれらを担保することが不可欠となるのです。そして、この点でITシステムが大きく寄与することになります。以下では近年、特に改善が求められている業務と、それに対するIT利用の課題を紹介します。

■予約システムによる待ち時間の解消

 「医療機関に対する不満」として、常に上位に位置付けられるのが「長い待ち時間」です。そこで、開業医など小規模な機関の場合は、インターネット予約サービスを提供し、予約受付業務を削減している例が数多く見られます。介護施設でもデイケアサービスの予約状況をホームページで確認可能としているケースが増えつつあります。

■電子カルテとオーダリングシステムによる全体最適化

 しかし、一定以上の規模の病院の場合、受付の他にも、診察、薬局、会計など、院内での行列待ちが生じるシーンが複数あります。従って、「予約システム」といっても、単なる予約受付の効率化のみを考えるのではなく、予約から診察、薬局、会計という一連の流れをひもづけて管理できる「オーダリングシステム」を考える必要があります。そうすれば、「患者数(予約受付数)に対する医師やスタッフの稼働状況」などを把握して、業務効率化や人的リソースの最適化につなげるなど、病院側も大きなメリットを享受できるためです。

 また、医師が紙のカルテを作成したり、看護師や検査技師への指示内容を口頭で伝えたりしていたのではあまりにも効率が悪過ぎます。その点で、カルテの電子化も求められます。

 そして最も重要なのは、これらを組み合わせることで大幅な効率化が狙えることでしょう。例えば、電子カルテに入力された投薬などの指示内容をオーダリングシステムに入力することによって、診療、検査から医事会計に至るまで、一連のプロセスを支える各部門が情報連携し、より確実・効率的に業務を運用することができます。患者に対しても、正確かつ効率的な対応が行えます。

 また、電子カルテとオーダリングシステムの普及拡大のためには、高度な情報セキュリティと、システムの安定稼働、万一の障害時の確実・迅速な復旧という前提条件も忘れることはできません。秘密保護と安定稼働を高いレベルで担保できなければ、人の命や生活にかかわる業務だけにリスクが大き過ぎるのです。

 以上のようなIT利用は、大規模な医療機関における近年の主要課題と言えますし、今後利用者の急増が予想される介護施設においても重要な意味を持つようになるはずです。

■クリニカルパスによる最適スケジューリング

 「クリニカルパス」とは、特定の病気の治療、検査における「標準化された作業スケジュール」のことです。基本的には、製造業における標準工程と同じ考え方であり、作業の標準化によって、医療の質を高め、コストを低減し、治療期間を短縮することを目指します。また、医療行為を見える化することによって、チーム医療や他機関との連携、分かりやすい説明による患者の安心感向上といったメリットも期待できます。

 そこで近年、医療現場では、クリニカルパスのマスタ整備や、患者ごとのクリニカルパスの計画、資源割り当て、進捗管理などを行える「医療従事者向けのプロジェクトマネジメントツール」が求められています。

■用度業務のSPDシステム化

 「用度業務」とは、医療機関における購買業務のことです。医療機関で必要となる物品には、医薬品の他、診療材料や衛生材料、滅菌物、帳票類などさまざまなものがあります。一般企業でも、購買業務を効率化の鍵となる重要なプロセスと位置付けていますが、医療機関においても用度業務の重要性が認識されつつあるのです。

 特に注目を集めているのが、SPD(Supply Processing and Distribution)という取り組みです。これは医療用物品の在庫管理を一元管理することによって、医療品質やコスト、納期の改善を目指すものです。ただ、これを成功させるためには、製造業における生産管理システムと同様、必要な物品の正確なマスタ管理が鍵を握ることになります。また、必要な物品のマスタを、どの部門の誰が管理するのかについては、前述した“標準化された作業スケジュール”クリニカルパスとひも付けて考える必要もあります。現在、そうしたポイントを視野に入れた「SPDシステム」の開発・導入も、1つの課題となっているのです。


 次回は「業種ごとの業務知識」の最終回として、官公庁の業務を紹介します。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ