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» 2012年09月04日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(104):社員が疲弊している会社は、経営層とITに問題あり

ITを有効活用する上では、まず“骨のある経営”ができているかどうか、自社のスタンスから見直してみるのも1つの方法かもしれない。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

競争に勝つ条件

競争に勝つ条件

著=経営イノベーション50研究会
発行=日経BP社
2012年8月
ISBN-10:4822223795
ISBN-13:978-4822223793
2800円+税
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 「POSに関しては、誤解している人が多いと思います。POSによって売れているモノと売れないモノが分かるから、売れているモノだけを入れればいいという考え方でPOSを使ったら失敗します。要するに、POSは仮設を検証するための1つの道具です。『POSを使えば、売れ筋が分かる』という考え方は、素人の考え方です」。「例えば、雨が降ったから傘が売れたとしましょう。でも、天気になったら傘は売れませんね。入梅の時だったら、傘は売れるでしょう。だからといって、ずっと店舗に置いておけばいいわけではありません」。「POSはあくまで検証する道具。何が売れそうかを考えて仮設を立てることが重要」です。「売れそうだという仮説を立てられない商品は発注しては」いけません―――。

 本書「競争に勝つ条件」は、コンビニ事業を確立させたセブン&アイ・ホールディングス、「宅急便」を世に送り出したヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)など、過去50年における代表的な経営イノベーションの事例を基に、「グローバル競争を勝ち抜くための条件」を抽出した作品である。特に「経営者がどんなリーダーシップを発揮したのか、事業を確立するためにICTをどう活用したのか」、経営トップらの含蓄ある言葉を基に、経営とICT活用の在り方をひも付けて紹介している点が特徴だ。

 例えば、冒頭はセブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの鈴木敏文氏の言葉だが、同氏は「POSを導入すれば、売れるモノが分かり、自動的に状況が改善されると安易に考え、ハードウェアに頼って売れるモノを自分で考えなくなることを危惧した」という。この言葉などは、ICTはあくまでツールであり、ビジネスを考えるのは人間という、ICT活用の忘れられがちな鉄則を示唆していると言えるのではないだろうか。実際、10年ほど前には「導入しさえすれば収益が向上する」と信じ込み、失敗例が続出したCRMの例があるが、これと同様の勘違いは今も後を絶たない。

 ヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)の元会長、故小倉昌男氏の「徹底した顧客起点」のスタンスも教訓に満ちている。小倉氏は「目標には絶対目標と相対目標の2つある。相対目標というのは環境によって優先順位が変わることもあるが、絶対目標は絶対に変わらない目標。それが(ヤマトにとっては)サービス第一だ」として、「需要家の立場で物事を考えること」を徹底した。さらに、これを事細かなルールを作って管理するのではなく、「自分がお客さんに対して一番いいサービスだと思っていることをやりなさい」と、全社員が1つの明確なビジョンの下、“自発的に動く文化”を醸成した。

 こうしたスタンスはICT活用にも反映された。同社は1974年に導入した「第一次NEKOシステム」以来、現在の「第7次NEKOシステム」まで基幹システムを刷新し続けているが、2005年の「第6次NEKOシステム」構築の際、「従来の業務改善を目的としたシステム刷新から、顧客起点の改革へ」発想を転換。「システムオタクの提案なんていらない」「仕組み自体(ICTシステム)が価値を持つのではなく、(顧客にとって)価値あるものを創出できる仕組みを導入するように」という考え方の下、「ご不在連絡eメール」を提供するなど、システムを使って「顧客の時間に対するストレスを限りなくゼロにする」ことに成功したのだという。

 この他、「コーポレートカルチャーを変えることは、レールを敷く仕事だと思います。データベースの構築や、パソコンを使ったBPRはその上に機関車を走らせるようなもの」(リテールバンキングで顧客の支持を獲得したスルガ銀行社長 岡野光喜氏)、「会社の実態を正しく『見る』ことができれば、おのずと正しい経営判断につながる」(適切なタイミングでメンテナンスを実施するために、GPSや各種デバイスから建設機械の位置情報、稼働情報を集めるシステム「KOMTRAX」を開発。その可能性を見極め、全製品にKOMTRAXを展開するという「思い切った経営判断」で成功を収めたコマツ 坂根正弘会長)など、あらゆるイノベーターらの言葉を多数収めている。

 さて、いかがだろう。本書は成功事例を紹介する一方で、相次いでシステムトラブルを起こしたみずほ銀行の内幕など“失敗事例”も取り上げているのだが、さまざまな事例を俯瞰してみると、成功と失敗を分かつものとは「その企業にしか担うことができない『役割』を見い出せているか」「経営者自身が自分の頭で考えて経営判断しているか」「ICTで何がしたいのかについてビジョンがあるか」といった点に集約できると分かる。

 これを「経営ビジョンを、戦略、戦術に落とし込み、その実現手段としてICTを使う」とまとめてしまえばごく当たり前のことに過ぎないが、テクノロジの進歩やICTの利便性は、ときに人の目を曇らせる。その点、「テクノロジ」に頼って他力本願に陥ることなく、自分の頭で考え、惑わされずに自社の強みを追求できる「胆力」こそが、経営とICT活用成功の最大の鍵と言えるのだろう。実際、目先の利益だけを追いかけて迷走し、疲弊していく例が昨今多いことを考えると、ICTを有効活用する上では、まず“骨のある経営”ができているかどうか、自社のスタンスから見直してみるのも1つの方法なのかもしれない。

 過去50年間の社会やIT業界の変遷、今後の予測など、“数々のイノベーションが起きた背景”を専門用語を使わずに説いている点も魅力。経営層に限らず、業務部門の現場層にとっても有用な一冊となるはずだ。ぜひ会社のお金で購入し、部門の全員で読んでみてはいかがだろうか。

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