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ネットワークが家を守る? 緊急地震速報を活用した自動防災システム

» 2004年04月22日 18時31分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 もうすぐ大地震が発生すると言われたら、あなたは何をするだろうか? ガスの元栓や暖房器具を止める、情報の収集、家族との連絡、避難経路の確保、机の下にもぐって落下物を避ける……頭では理解していても、咄嗟に対応するのはなかなか難しいものだ。しかし近い将来、ホームネットワークがあなたを助けてくれるようになる。

 NPO法人のリアルタイム地震情報利用協議会(REIC)と電子情報技術産業協会(JEITA)は4月22日、「家庭内制御ネットワーク向け自動防災システム」を公開した。これは、実証実験が進められている「緊急地震速報」とホームネットワークを活用し、地震発生時の避難行動を支援するというもの。さいたま市の住宅展示場「大宮北ハウジングステージ」内に実験住宅を建設し、「ITハウス情報館」として常設展示する。

photo さいたま市の住宅展示場「大宮北ハウジングステージ」内にある「ITハウス情報館」。

初期微動を検知してネット配信

 地震には、伝播速度は早いが揺れは小さい“P波”(いわゆる初期微動)と、伝播速度は遅いが大きな揺れを伴う“S波”(主要動)がある。大きな被害をもたらすのはS波であり、その到着時間を予測、配信して防災に役立てるのが緊急地震速報だ。

photo P波とS波の波形(出典はREICのWebサイト

 「全国800カ所に上る地震観測網から集めた情報をREICのサーバで高速処理し、インターネットなどを使って配信する。現在の地震速報は発生から情報発信まで2〜3分の時間がかかるが、緊急地震速報では2.5秒にまで短縮できる」(REICの藤縄幸雄専務理事)。

 緊急地震速報が実用化されると、震源地から離れた地域なら、大地震発生(S波到着)前に情報を入手し、避難行動を取ることが可能になる。ただし、伝播速度が遅いとはいえ、S波が到着するまでの時間は秒単位でしかない。そこで役立つのがネットワークだ。

 インターネットから地震情報を受け取ると、「ホームコントローラ」が家電を制御し、火元の遮断などの措置を自動的に行う。これにより、在宅者は避難する時間的な余裕を与えられるという。JEITA、特定プロジェクト推進室の杉原義得担当部長は、「実験システムでは、緊急地震速報の信号を受けてから、0.02秒あればガスコンロや電気ヒーターを遮断できる」と話している。

photo JEITA、特定プロジェクト推進室の杉原義得担当部長
photo TRONを採用したホームコントローラ。その下にあるのは音声ガイダンス装置。インターネット経由で届いたテキスト情報を音声化する

犬の避難も

 デモンストレーションは、「冬の夕方、小田原市付近で関東大震災クラスの地震が発生した」という設定で行われた。実験住宅は東京・お茶の水付近にあると仮定しており、地震情報の取得からS波到達までの時間的な猶予は約12秒だ。

 キッチンでは、奥様が料理の真っ最中。すると、ホームコントローラが地震速報を受信し、まずガスの元栓が閉まった。ほぼ同時に電気ヒーターが停止し、数秒後にはテレビの電源が入る。これは、情報収集のためだ。また、それまで下りていたブラインドが上がり始め、音声ガイダンス装置がカウントダウンを始める。

photo キッチンでは、奥様が料理の真っ最中
photo コンロの火が消えた
photo テレビに電源が入り、ブラインドが上がった

 「緊急地震速報! 震度6、あと10秒後、9、8、7……」。

 奥様は、慌てることなくテーブルの下に潜った。

 これらの住宅設備は、HA(JEMA、ホームオートメーション規格)とイーサネットでネットワーク化されており、TRON搭載のホームコントローラがコマンドを送って制御している。また、TVは対面の壁に設置された赤外線ユニット(HA対応)からリモコン信号を受けて電源が入る仕組みだ。地震が収まれば、ガスや電気は手動で解除できる。

photo 壁面に設置された赤外線ユニット
photo ガスの元栓を止める装置

 一方、飼い犬が寝そべる玄関先でも、いくつかの装置が作動していた。まず、玄関のロックが解除され、「ドア緊急開放装置」がドアを押し開ける。これは、地震で家が歪んでしまうことを考慮して、事前に避難経路を確保しておくため。情報を検知してから、3〜5秒後だ。

photo ドア緊急開放装置。なお、誤った警報を受けてドアが開けっ放しになることを防ぐため、気象庁から各家庭へリセット信号を送り、自動的にドアが閉まる仕組みも盛り込まれているという

 同時に犬をつないでいたリード(係留鎖)が延び、地震に驚いた(という設定で)犬が建物から離れる。「ペットの行動範囲を拡げ、建物倒壊の下敷きや火災による事故から逃げやすくする。完全に解放することも可能だが、野良犬化することを防ぐため、伸張するリードにした」(JEITA)。

photo 犬のリードが延びた。しばらくすると、玄関の壁に設置されている赤色灯も回り出す。これは、中に人が残っているという意味

来年には実用化?

 今回のデモを見ればわかるように、今回の自動防災システムは、ある程度、震源地から離れた場所でないと有効ではない。つまり直下型の地震には対応できない仕組みだ。しかし、自動的に、かつ迅速な対応が可能になり、極めて実用的といえる。

 JEITAでは、年内に検証を進め、来年には同システムを実用化する方針。主に住宅会社やホームセキュリティ会社が販売する見込みだ。「ホームコントローラ、音声ガイダンス装置、電気とガスをシャットダウンする仕組みまでを“基本”として、10万円を超さないレベルの費用で導入できるようにする」(同氏)。

 なお、地震警報などのオンラインサービスに関しては、今後ISPや通信キャリアに協力を求めることになるが、杉原氏は「月額500〜1000円程度で利用できるようにしたい」と話していた。

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