コラム
» 2004年06月07日 10時44分 UPDATE

VAIOに何が起こったか――VAIO Pocket篇 (1/3)

VAIOブランドのノンPCデバイス「VAIO Pocket」は“気になる”製品だ。iPod対抗のHDDミュージックプレーヤーと位置づけられるが、ATRAC3再生専用機で、MP3ファイルは変換が必要になる。ソニーがなぜこうした戦略を採ったのか、筆者なりに考えてみた。

[小寺信良,ITmedia]

 VAIO第二章にこだわって、数週間に渡りいろいろと考えてきたが、今回をもっていったん完了という形にしたい。まあそろそろ他のことも書いていかないと、他の持ちネタが古くなってしまうしネ。

 さて今回のお題は、VAIO Pocketである。VAIOブランドでのノンPCデバイスであり、ぼーっとしていると単なるVAIO周辺機器に見えてしまうが、実際にはVAIO PCに接続して使うことが“マスト”ではない製品である。つまり対外的に見れば、iPod対抗ソニー製HDDミュージックプレーヤーという位置付けになるだろうか。

 まずはこの辺りから考えていこう。

VAIOブランド一人歩きの道

 VAIOブランドをPC以外にも展開するという話は、今回のDo VAIO宣言以前から行なわれていた。そしてそれが現実的な形として最初に現われたのが、昨年11月に発売されたポータブルAVプレーヤー「PCVA-HVP20」だ。MPEG-1/2の動画しか再生できないとはいえ、高精細な液晶モニタを備えており、テレビ番組の視聴には優れた能力を備えていた。

jn_pcva.jpg VAIOブランド、ノンPC展開の第一歩となった「PCVA-HVP20」

 動作保証という意味では、同社のVAIOとの組み合わせを保証するしか手段がなかったのだろうが、実際には汎用のPCでも動作する。クレードルも付けず、ACアダプタもVAIO用の特殊コネクタではなく汎用のものを使い、極力コストを下げた。内容からすれば、発売当初の店頭予想価格で5万円前後というのは、決して高くない

 この製品を仕掛けたのが、ソニー インフォメーションテクノロジーカンパニーの平尾成史氏である。この製品は、まさにVAIOブランド一人歩きのための「斥候」という役目を担っていた。そして今回のVAIO Pocketの商品企画を担当したのも同じく平尾氏であることから考えると、HVP20はその役目を十分に果たし、VAIOブランドのポータブルプレーヤー戦略は会社的に十分イケると判断した結果なのであろう。

 ただオーディオプレーヤーとして考えた場合、ソニーの音楽戦略は非常に特殊で、複雑だ。ソニーのポータブルオーディオは、カセットテープに音楽を録音して持ち歩くという、ウォークマンから花開いた。それがCDウォークマンになり、MDウォークマンへと移行してゆく。

 電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると、カセットタイプのポータブルプレーヤーの出荷台数は、1999年にはMDタイプのそれに抜かれている。そして2003年のポータブルMD出荷台数は、既に市場は飽和していると言われつつも、300万台を突破している。MD付きステレオセットをそれに加えれば、500万台を軽く超える。

 一体何を言い出したかと思われるかもしれないが、ソニーが“ATRAC3”というフォーマットを簡単に捨てられない理由は、この普及率にある。この資源は、きっといずれ利用できると踏んでいるに違いない。

ATRAC3に未来はあるか

 ATRAC3は、VAIOのSonicStageでデフォルトの音楽圧縮フォーマットとなっており、メモリベースのソニー製ポータブルプレーヤーなどは、頑なにATRAC3にのみ対応してきた。そして当然とも言える流れで、VAIO PocketもARTAC3と、その拡張フォーマットであるARTAC3 Plusにのみ対応している。

 ATRAC3は、初期のMDに圧縮フォーマットとして採用されていた「ATRAC」が元になっている。MDが登場したのが1992年だから、その基礎は12年前に作られた技術であり、MP3などよりもはるかに古い。その後、より圧縮率を高めたATRAC3が、現MDの基本フォーマットとなっている。

 ちょっと本題からズレるが(最初っからズレッぱなしのような気もするが)、おそらくここで注意しておくべきは、ATRACは確かに歴史が古い技術ではあるが、最新フォーマットのATRAC3 Plusに注目すれば、MP3やAACなどと比較しても決して音質的に劣るものではないと言う点が一つ。

 もう一つは、既にNetMDなどをお使いの方からすれば、ATRAC3はコピープロテクションが面倒という印象を持たれているかもしれないが、これは誤解である。ATRAC3は純粋に圧縮フォーマットで、コピープロテクションのほうは「OpenMG」という別の技術だ。普段は別々に分けて語られることがないため、「ATRAC3=コピープロテクション」というイメージが先行しがちだが、ここのところは分けて考えておくべきだ。

 さてむりやり話を戻して、VAIO PocketはATRAC3再生専用機であるということから考えていこう。VAIO Pocket購入予備軍のネックは、おそらくこの点になるに違いない。ユーザーの利便性、さらにはVAIOブランドのPC外展開という大きな視野に立てば、いまどきATRAC3かよ、という話になるだろう。

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