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トップ交代劇に思う“ソニーの目指す方向性”(3/3 ページ)

» 2005年03月09日 18時40分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 ソニーの設立趣意書には、技術者たちが自由闊達に楽しく良い製品を開発する理想工場の実現を目指すという一説が書き込まれていたというのは有名な話だ。しかし、自由闊達に理想を追って実績を作ってきた人物たちが、新しい時代の変化に気付かず、若い技術者の自由を奪っていたのかもしれない。

 筆者がIT系の取材をきっかけにこの仕事を始めたからひいき目に言うわけではないが、その点では歴史の浅いパソコン事業の方が、ずっと自由に見えた。近年は売り上げの低迷から、予算や組織編成上などの面で自由度は低くなっているようだが、自由な発想を製品に生かすという意味ではよほど自由度は高い(むろん、それが失敗を生んでいる面もあるが)。

 ソニーの企業文化は、確かに彼らの中に根付いてはいるのだろう。しかし、組織の風通しの悪さが、そうした良い面を消し去っていたのではないか。今回、マーケティング畑を歩いてきた安藤氏の後任を引き継いだのは、技術者出身の中鉢良治副社長。ソニー初の外国人CEOとなる米国法人会長のハワード・ストリンガー副会長兼COOの採用に注目が集まりがちだが、個人的には中鉢氏がどのような方向に舵を取るのかに注目したい。

理想と現実のギャップ

 エコノミストでもない筆者が分析する事ではないかもしれないが、近年のソニーにはブランドに対する過信があったように思う。確かにソニーは非常に高いブランド力を誇っている。だが、そのブランド力の源泉となってきたのは、やはり本業のエレクトロニクス製品が生んできた先進的なイメージやデザイン、機能、性能などだろう。

 出井氏、安藤氏の時代は、ソニーのブランド力を活かし、ネットワーク化への対応や金融など新しい分野への進出を果たすなど、本業以外の分野で確たる地位を築くことだった。安藤氏がソニーショック以前のタイミングで「AV業界におけるソニーブランドの力は絶大。本業のエレクトロニクス製品だけならば、利益を出すのは難しい事ではない」と話していたのを覚えている。

 だが、そのブランド力を支える“技術者にとっての理想工場”を理想から遠ざけていては、うまくいかない。もちろん、経営を無視してまで、なんでも投資するわけにはいかない。理想を追えば、良い結果がでるわけでもない。

 ウォークマンと同じく批判が集中している、DVDレコーダーや薄型テレビへの対応の遅れなども、別の切り口で見ると理想を追いすぎたが故という見方もできる。

 DVDレコーダーは、記録型は最初から青紫レーザーで行くべきという考え方、薄型テレビはFEDやOLED(有機EL)といった方式の方が理想的と考えて開発資源を集中させた結果だ。そして、その選択は間違っていたわけだが、それはあくまでも結果論である。

 理想を追っていれば、必ずそこには見込み違いや失敗はあるものだ。問題は、そうした失敗を、経営側がどのように救っていくかだろう。“理想工場”を救うための経営手段ならば、ある程度、厳しい内容であったとしても、開発や製造の現場も納得できるはずだ。

 以前、僕がこの仕事をやり始めた頃、ソニー創業者で2代目の社長を務めた井深大氏の話を直接聞く機会があった。細かな話のニュアンスは古い話で思い出せないが、要約すると「技術者が自由に新しい製品、楽しみを生み出す事に集中できる会社がソニー。経営側は、その技術者たちの夢を実現するために努力するのみ」といった話だったように記憶している。

 もちろん、理想と現実にはギャップがあるものだ。今のソニーは、まさにそのギャップの大きさに悩んでいる。経営手腕に評価の高いストリンガー氏と、技術者や製造現場と経営の間を繋ぐことができる中鉢氏。今後のソニーがどう変わるのか。難しい経営環境に変化はないが、その変化に期待するところは大きい。

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