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テルミン――音楽を奏でる素朴な喜び(1/3 ページ)

» 2005年03月14日 09時36分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 音楽を楽しむ方法には、たくさんの種類がある。今は忙しくて聴くだけという人も多いだろうが、ほとんどの人は、何らかの楽器が演奏できるはずだ。ハーモニカは小学校の音楽の授業で必ずやるし、リコーダーやピアニカも必修である。

 楽器がうまく弾けるかどうかで、音楽の授業は天国になるか地獄になるかが決まる。幼稚園の頃からヤマハオルガン教室に通い、音楽に関しては絶大な自信を持っていた筆者の最初の挫折が、小学校のハーモニカであった。

 今出している音の場所が目で見えないだけでなく、指を使わず口だけでやれという楽器は、鍵盤に慣れ親しんだものにとっては異次元の楽器であった。しかもドレミファ……を演奏するのに、「吸って吐いて」を交互にやるだけではダメなのだ。途中で「吸って吸って」と二回続けるところが納得できなかった。

 さらにメロディを演奏するとなると、ある地点からある地点へジャンプしなければならない。目で見えてればまだしも、口だけを瞬間的に移動させろなどと理不尽なことを言う。またメロディ次第で「吐いて吐いて吐いて」ばっかりになったら、息が吸えなくて死んじゃうんじゃないかという懸念もある。子供心に、なんて不条理な楽器なのだと思ったものだ。

 一方筆者の父は、ハーモニカが非常にうまかった。戦前に生まれた父は子供の頃、音楽の楽しみといえばラジオとハーモニカぐらいしかなかったのでうまくなったのだという。これ1本で伴奏とメロディをいっぺんに吹く父を見て、口の中に別の口が3つ4つあるんじゃないかといぶかしかったものである。

テクノロジーが解決する「消音」

 学生時代にやっていた楽器を、大人になってもう一度始めるとなると、いろいろと難しい問題に直面することになる。エレクトリック系の楽器ならヘッドホンを使えば済むことだが、アコースティック楽器は実際に演奏すればそれなりの音量が出てくるため、練習場所の確保も問題だ。しかし楽器メーカーもそのあたりはちゃんと考えていて、弾き心地はそのままに、音の出力を電子化した練習用の楽器は、経験者に人気が高い。

 ヤマハがリリースしている「サイレントシリーズ」には、アコースティックギターやドラムなどのほか、バイオリンやビオラ、チェロ、コントラバスなど、クラシック系の楽器もそろっている。これらには共鳴のためのボディがないが、ちゃんと弦を張っているため、本物と同じような感覚で練習することができる。

 また金管楽器では、ミュートにマイクを仕込み、エフェクタや外部入力に対応させた「サイレントブラス」もある。このメリットは、楽器自体は本物を使えるところだ。昔、吹奏楽部だったという人も、もう一度押し入れから楽器を引っ張り出してみてはどうだろう。

 筆者は実際にまだ試奏していないが、ピアノ弾きにとってはサイレントピアノへのこだわりは、分かる気がする。そんなもんエレピでいいじゃねえかと言われそうだが、いくら音は本物に近づいても、鍵盤のタッチがどうしても違うのである。生ピアノの鍵盤のタッチは、テコの原理を応用したハンマーの動きによって作られる。この微妙な感覚は、重りをいくら調整してもダメで、やっぱり本当にハンマーを動かさないと、再現できないのである。

 十代の始めごろからロックに夢中になった筆者は、学生時代にギター、ピアノを始め、ドラムやベースなど、いろんな楽器をマスターした。いやマスターというとえらく大げさだが、まあ多少弾けるという程度である。自分でもロックがやりたかったわけだから、もっぱらアンサンブル志向で、単音楽器にはあまり興味を持たなかった。また当時はシンセサイザーの勃興期で、ちょうどアナログからデジタルへの移行期でもあったことから、大抵の楽器は鍵盤が弾ければ、まあそれ風な演奏をすることもできたのである。

電子楽器の原点へ

 自力で楽器を演奏するという行為は、何物にも代え難い喜びがある。それがたとえ草笛であったとしても、何かキカイに頼らずに完結するほうが、奏でる音楽に対する理解度がまったく違うと思うのだ。しばらく自分で音楽を演奏することから離れていた筆者だが、最近レトロでアナログな楽器に興味を持った。

 「テルミン」である。

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