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テルミン――音楽を奏でる素朴な喜び(3/3 ページ)

» 2005年03月14日 09時36分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 一方日本に目を向けると、これもいろいろなテルミンが見つかる。本格的なものとしては、TAK・テルミン・ラボが製造する「e-winds S」は評価が高いようだ。これは原宿駅前のシンセサイザープロショップ「Five G」でも扱っている。

 大手楽器メーカーも、大々的ではないがテルミンを製造している。「フェルナンデス」のブランドで知られる河合楽器には、デジタルディレイを内蔵した「エコー・テルミン」がある。また同社のロングセラーであるミニギター「ZO-3」に、このテルミンのエコーなしモデルを内蔵した「THEREMIN-ZO」もある。

 ITmediaで過去に紹介されたこともある「デジタルテルミン」は、演奏法だけテルミンの原理を使った、MIDIコントローラだ。本体だけでは音が出ないので、別途MIDI音源が必要になる。

 楽器メーカーが主体となって作成した例では、イシバシ楽器が独自に開発した「イシバシ・テルミン」が有名である。ギターエフェクター程度の大きさの中にテルミンの機能を盛り込んだもので、アクティブな音量調節は難しいが、テルミンとはどういうものかを体験するには、一番リーズナブルなモデルだろう。実は筆者もこれを購入して、日々練習に励んでいる。

 ただ本格的なモデルとは違って、音階の幅が約2オクターブと狭いこと、また反応する範囲が約15センチ程度と狭いので、音程を正確に捉えるのがなかなか難しい。高音部では、全音分の移動距離が2ミリとかになってしまうのである。しかしビブラートを加えながらテルミンで奏でる童謡などは、口笛とはまた違ったノスタルジックな雰囲気があって、演奏していて気持ちが和む。

 プロのテルミン奏者になれば、どんな曲でも弾けるのだろうが、筆者の試したところではテルミンに向いているものと向いていないものがあるようだ。たとえば童謡では山田耕筰作曲の「この道」は連続性のあるメロディラインで演奏しやすいが、「赤とんぼ」は突発的な音程の飛躍があり、使用する音域も広いため、イシバシ・テルミンでの演奏はかなり厳しい。同様に滝廉太郎作曲の「花」や「荒城の月」なども、なかなか苦労させられる。

 テルミンの雰囲気だけ味わいたい時は、くだんの映画のオフィシャルサイトで、FLASHを使った疑似テルミンが体験できる。もっとも本物のテルミンはこれのように音程が段階的ではなく、連続変化するので、狙った音程のところにビシッと手を止める必要があるのだ。

 テルミンは音を出すのは簡単だが、演奏するのは難しい。だが自分の耳と手の感覚を頼りに、懐かしいメロディを紡いでいくと、鍵盤上で音をなぞるのとはまた違った理解が得られる。こんな感覚的に音楽を楽しむ方法も、あっていいだろう。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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