先月のことだったか、たまたまテレビでこの楽器を発明したレオン・テルミン博士の数奇な生涯を描いたドキュメンタリー映画、「テルミン」を見たことがきっかけとなった。
「テルミン」は電子楽器の元祖とも言えるもので、ロシア(当時はソビエト連邦)のレオン・テルミン博士が、真空管ラジオのチューニング音からヒントを得て開発された。
アナログチューニングのラジオを使ったことがある人はご記憶だろうが、昔のラジオは放送局にダイヤルを合わせる途中で、チュウーーーンという音が聞こえたものだ。あの発信をコントロールして音階を作っていこう、というわけである。
演奏法は鍵盤などをまったく使わず、アンテナに向かって手を近づけたり遠ざけたりするだけである。右手側のアンテナは、近づくほど高音に、遠ざかるほど低音になる。左手のアンテナはボリュームだ。近づけると音量が小さく、遠ざけると大きくなる。この左右の手の動きだけで、メロディを奏でるわけである。
テルミンを使った曲はいろいろあるが、おそらくもっともヒットした曲は、ビーチボーイズの「Good Vibration」ではないだろうか。サビ部分のバックで飄々(ひょうひょう)としたカウンターラインを奏でているのが、テルミンである。
テルミンを実際に演奏している映像は、あまり見あたらない。ロックファンに知られているのは、1976年に公開されたレッドツェッペリンの映画「永遠の詩」の終盤で、ジミー・ペイジがライブでテルミンを演奏して見せたシーンだろう。
もっともこの場合、メロディを弾くというよりも、パフォーマンスとしてのエフェクティブな使い方で、彼らの得意とするロングディレイを駆使したボーカルとの掛け合いに終止しており、図らずも後々までテルミンという楽器のイメージを誤解させる元となってしまった。
筆者がテルミンのちゃんとした(?)演奏の映像を見たのは、おそらく87〜8年の頃だろう。当時筆者は渋谷のあるホールで、MiniMoogなどのアナログシンセサイザーの開発者として知られるロバート・モーグ博士の講演を聴講する機会に恵まれた。
このときに参考資料として、テルミン演奏の第一人者、クララ・ロックモアの演奏のフィルムを見た。軽く握った拳を開いたり閉じたり横に向けたりしながら、早いパッセージも難なくこなすその姿そのものが、一種の芸術であった。映画「テルミン」の中でも、彼女の演奏の一部を見ることができる。
「テルミン」という楽器は、今買えるのだろうか。そう思って調べてみたところ、意外にもテルミンのファンは多く、また製品もいろいろなものが販売されていると言うことが分かった。
筆者の判断でもっともメジャーなテルミンとして、今もMoogシンセサイザーを販売するMoog Music Inc.の「Etherwave Pro」を最初にご紹介しておこう。前出のロバート・モーグ博士は、自身の名を高めたMoogシンセサイザーを開発する以前に、独自に改良した自作テルミンを販売していたこともある。このEtherwave Proは1495ドルと高価だが、もっと廉価な349ドルの自作キットもある。
別な意味で行きすぎたタイプとしては、「マトリョミン」は外せない。テルミンの機能をロシアの民芸品「マトリョーシカ」に入れてしまったという逸品である。さらにカスタムメイドの防寒用外套まで用意されているというからすごい。
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