先日、カノープス東京日本橋ビデオサロンで行なわれた「EDIUS 3 for HDV」の発表会に行ってきた。HDVフォーマットの映像がノンリニア編集できる、廉価なソフトウェアである。
そこにはPentium Dプロセッサ搭載のマシンがずらりと並び、デュアルコアの威力でもって、HDVのMPEG-2 TSを取り込みながらリアルタイムで同社独自のCanopus HQコーデックに変換できるのだという。たった2万9800円のソフトだが、動作環境はPentium 4/3.0GHz以上、推奨環境はPentium DまたはXeon/2.80GHz×2だというから驚く。
実はHDVのMPEG-2 TSをただキャプチャーするだけなら、今どきのPCなら楽々にこなせる。なぜならば、いくらHDだからとはいっても、所詮はDVコーデックと同じビットレートのストリームをHDDに書き込んでいくだけだからである。だがこれは単に「キャプチャーできる」というだけで、そんじょそこらのPCでは、まずその取り込んだMPEG-2 TSファイルを通常速度で再生できない。デコード処理が間に合わないのである。
だがこれをCanopus HQコーデックに変換してしまえば、Pentium 4/3.0GHz程度のマシンならば普通に再生して、編集できる。筆者所有のもっとも速いPCはPentium 4/2.8GHzだが、このマシンでもカット編集ぐらいなら問題なく作業できる。
ただしMPEG-2 TSのファイルをCanopus HQコーデックに変換するのに、実時間の2倍ぐらい時間がかかる。EDIUS 3 for HDVの推奨環境がこれほどまでにすごいことになっているのは、キャプチャーと同時に、しかもリアルタイムでCanopus HQコーデックに変換する、という作業を行なうためだ。
発表会にはIntelの方々も列席して、とてもうれしそうであった。そうだろうなぁ、無駄に速いと言われることなく、まさにおあつらえ向きのヘビーなタスクが登場したわけである。「快適なHDV編集にはPentium Dが必須」というストーリーができあがれば、その筋には黙っていても勝手にプロセッサが売れてくれる。リアルタイムキャプチャーのデモを見ながら、筆者はかつてAlphaマシン用のデモシーンを作っていたことを、ぼんやりと思い出していた。
PCの使い方で一番多いのは何か、という調査は最近行なわれていないようだが、情報端末になっているものは、かなりの数に上るだろう。いわゆるWebが見られてメールが書けて、デジカメの写真がアップできて、という程度のタスクである。この程度であれば、ソフマップの「牛丼パソコン」でも十分オツリが来る。
PCが速くなったおかげで、あれもこれも楽にできるようになった、と考える人もいるだろう。そういう人はPC進化の先端から一歩遅れて付いてきている人で、いい具合にこなれてきたときに手を出してるわけだ。実はPCユーザーの中では、一番おいしいポジションであろう。だがすべての人がそこで立ち止まってしまったら、次のステップはもう安売り合戦しかない。
PC業界全体の発展とは、その高速化と大容量化に見合ったタスクをいかに探し出して、ブームを作っていくかというところにかかっている。映像ばかりではなく、オーディオも今後はHDサウンドと銘打って、24ビット/96KHz当たり前の世界がやってくる。プロセッサも来年には、64ビットがスタンダードになるそうである。
そうなったときに、その能力に見合う、そして我々が飛びつきたくなるようなヘビーなタスクを、業界は上手く見つけ出すことができるだろうか。それが「Windows Vistaが快適に動きます」では、あまりにも寂しい。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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