小寺信良
「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言(1/4 ページ)
録音・録画補償金やDRMのあり方など、著作物の意義や対価システムが見直されようとしている。消費者にしてみれば、もちろん補償金もDRMもいやだということだけははっきりしているわけだが、権利者の団体はそれによって著作権者の利益が守られるのだと主張する。
だがちょっと待って欲しい。権利者といっても、いつも議論の舞台に登場するのはJASRACを始めとする権利団体だ。本当の意味での著作権者である音楽家達は、補償金やDRMなどのことをどう考えているのかという話は、ちっとも伝わってこないのである。
これはどう考えても、議論の席に座る人のバランスとしておかしいだろう。その権利者団体が、果たして正しくミュージシャンなど芸術家の総意を代表していると言えるのかがはっきりしないことには、権利者団体と話し合いをして意味があるのかも、実はわからないのではないか。
実際のプロの音楽家が今日の状況をどのように考えているのか、それを語るにふさわしい人をいろいろと考えていった結果、平沢進氏に行き当たった。
日本のテクノ・ニューウェーブシーンをリアルタイムで経験した年代の人間であれば、「平沢進」の名前を知らないはずはない。P-MODELのリーダー/ボーカリストであり、1989年以降はソロとしても活躍中である。
同氏は1999年、まだ音楽配信など影も形もない頃に、自らのサイトでMP3を使った楽曲の音楽販売を開始した。文字通り音楽配信の先駆者である。
またそれと並行してJASRACの権利支配のあり方に疑問を持ち、メジャーレーベルとの契約を自ら切り、作品の版権を引き上げて自分で管理するという方法に切り替えた。現役ミュージシャンで音楽配信や著作権、補償金の話を聞くのに、これ以上ふさわしい人はいないだろう。
ライブパフォーマンスにおいては、会場のオーディエンスとネット上のファンによる「選択」で毎回違ったストーリーを展開していく、独特の「インタラクティブ・ライブ」を実践し、2001年には「デジタルコンテンツグランプリ」において最優秀賞である経済産業省大臣賞を受賞している。
せんえつながら、この受賞したショウ「賢者のプロペラ」で、ネット上のインタラクティブサイトのグラフィックスデザインを行なったのが、筆者であった。今回はそのツテを頼って、平沢氏本人に直接お話をうかがうことができた次第である。
音楽業界に深く根を張るJASRACの存在
現在平沢氏は、茨城県つくば市に自らのレコーディングスタジオを構築し、活動拠点を移している。このインタビューは、つくば駅からほど近いホテルのラウンジにて行なわれた。
――平沢さんといえば音楽配信の先駆者であるわけですが、これを始めることとメジャーレーベルから離れるということは、関連した動きだったんですか?
平沢氏: そもそも私のやっている音楽は、メジャー向きじゃないんですね(笑)。私もバンドのメンバーも、メジャー的な姿勢で音楽を作っていったり、アルバムをリリースしていくことに関してずっと違和感を感じていました。ただデビューした79年という時代では、自ら音楽をリリースすることがそれほど簡単ではなかったんですよ。全国規模でプロモーション、ディストリビューション、レコーディングにかかる費用含めて、自分たちだけでは満足いくものは作れないということで、留まっていたんですね。ですがインターネットが普及してきたのと合わせて、MP3というインターネットに適したフォーマットが出現してきた。これをきっかけに、もう居る理由はないということで辞めてしまった。
――メジャーを去ることで、JASRACなど管理会社との関係はどうなったのでしょう?
平沢氏: JASRACとはこの業界の悪しき構造ゆえに、完全に縁が切れてはいない状態なんです。いくつかの楽曲はやむなくJASRACに管理を任せざるを得ないことになっていますが、基本的にはe-Licenseにライセンス管理をお願いしています。
e-Licenseとは、2001年に著作権等管理事業法が施行されたときに立ち上がった、著作権管理事業者である。それ以前はJASRAC一社が音楽著作権のすべてを行なってきたわけだが、権利者自身が事業者を選べるようになることで、自由化を促した。
だが音楽著作権にまつわるすべてが、新規事業者に任されているわけではない。著作権等管理事業法では、音楽著作権を4つに分けた。「演奏権等」「録音権等」「貸与権」「出版権等」である。これを「支分権」という。
e-Licenseなど新規参入の管理事業者は、このうち「録音権等」のみの管理しか行なうことができず、そのほかの権利に関しては相変わらずJASRACが独占的に管理している。このため、管理事業法本来の趣旨が発揮できていないといった批判も強い。
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