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ダビング10の向こうに光は見えるのか対談:小寺信良×椎名和夫(最終回)(2/6 ページ)

» 2007年11月08日 08時30分 公開
[津田大介,ITmedia]

小寺氏: いろいろな経緯があってああいう記者会見になるのは理解できるんですけど、でもその経緯ってオープンにされてないですよね。変な話、椎名さんしか知らないということがたくさんある。でも、そういう経緯を知らない外野から見たら、放送の録画とかそういうことに関して音楽の実演家が関係するパーセンテージって多くないじゃないですか。

椎名氏: だからそこはあんまり関係ないんだってば。

小寺氏: 本来、ああいう場にはこの問題に対して関係する割合が高い人が出てきて、その人が代表としてしゃべらなきゃいけないんじゃないですか?

――僕もそう思いますよ。それこそ民放連の会長あたりが出てきて言わなきゃいけないんじゃないか。そういうレベルの話だと思うんですけどね。

放送局はどうして議論の表舞台に顔を出さない?

椎名氏: まあ、そういう意味でいうと、放送事業者さんってのはあんまり矢面に立ちにくいみたいですね。

――ずるいなぁ。

小寺氏: 僕はそこのところをまず、本当に責任のパーセンテージの多い人が表に出てきてしゃべらなきゃいけないと思うんですけどね。

椎名氏: まあ、色々あるんでしょう。放送局は「権利者が……」って盛んに言うし、JEITAは「消費者が……」って言うわけでしょ。そういう意味ではおあいこのところあるんだけど、そんななかで、権利者と消費者でじかに議論ができたのはとても大きかったと思うんですよ。

photo 椎名氏

 それでまた、この議論の影響を受ける権利者ってのは、何も放送事業者や実演家ばかりじゃないわけです。例えば、放送番組に関連する映像、音楽、テキスト、その他すべての権利者って話になるし、それ以外にも番組を制作する事業者や映画制作者やいろんな立場が含まれています。必ずしも放送事業者だけが当事者ってわけじゃないですよ。

また放送事業者ってのが、これまでのビジネスモデルの建て付けが少しおかしくなり始めているなかで色々と模索してるんだけど、人間苦しくなると、とかく人のせいにしたがるってあるじゃないですか。放送番組のネット流通は国策であるなんていわれても、それをこれまでのビジネスモデルとどう整合させるかってことに本気で悩んでいると、どうかすると「実演家が障害になってる」とか主張しちゃったりするわけですよ。

 総務省委員会の出の僕の役割りってのは、何もコピーワンスのことばかりではなくて、そういういわれのない話に対して、きちんと反論していくっていう部分が含まれているんです。その意味では僕の今のミッションは「実演家の許諾権が通信放送融合の障害になっている」というデマや誤解に基づくバッシングを何とかすることなんです。その部分ってのは、たしかに音楽の実演家とかいう範疇を遥かに超えたお仕事の部分なわけですよ(笑)。

――それだったら椎名さんが放送局を敵に回すような格好になって「ふざけるな放送局!」っていう立場を明確にすればいいんじゃないですか。「DRMはなんかいらない。俺らはユーザーの味方だ。音楽家はテレビ局にブランケット分配でいい加減に搾取されてきた。今こそテレビ業界の構造改革を行わなきゃいけない!」みたいに主張すれば、もうネットで椎名さん人気が沸騰するんじゃないですかね(笑)

椎名氏: いやいや……そういう盛り上げ方しないでよ(笑)。

小寺氏: (笑)

椎名氏: あのね、ええとね。真面目にもう少ししたり顔で説明するとね。昔、テレビの黎明期に「五社協定」(ウィキペディア:五社協定)というのがありまして、大手映画会社の5社に所属する映画俳優はテレビには出さないという協定があったんですよ。どこの国でも映画業界と放送業界の対立っていうのは歴史的に存在してて、日本の場合は五社協定という形だったんですね。で、そういう状況で放送番組に出演するタレントを放送局に供給してきた芸能界とは、ある意味で最初からいわば共存共栄の関係にあるんですよね。

 一方で、その五社協定で放送局と対極にいた映画会社、ここでいえば日本映画製作者連盟の華頂(尚隆)さんに代表される部分ですけど、そこは放送業者とは別の立ち位置で一貫して「本当はコピーネバーにしたい」という主張をしてるんですよ。

小寺氏: 確かに映画っていうコンテンツは特殊なんですよね。バラエティ番組とは違うものだし、みんなが保存したい物ってテレビ番組よりも、映画なのかもしれない。映画とアニメというコンテンツは、そういう傾向があらゆるコンテンツの中でも際だっていると思うんですね。

 だから、運用レベルの話に戻すと、例えば映画とかアニメに限ってはコピーワンスのままで暫定的に運用するとか、そういう形式でも構わないとは僕も思ってるんですよ。何でそういうこと言うかというと、コピーワンスの運用を決める前、NHKと民放連は「モノによってはコピーフリーの場合もあるだろうし、コピーワンスでなければならないものもあるだろう」みたいなことを言って、番組ごとの柔軟な運用を臭わせていたんですよ。

椎名氏: あ、そうなんですか。

小寺氏: でも実際に蓋を開けてみると、番組ごとにDRM水準変えるというのは技術的に大変だからCMも何もかも一緒くたにコピーワンスかけるという形態になってるわけじゃないですか。あれってやっぱりおかしくて、例えばNHKの番組は受信料を国民が払っているわけで、それはつまりコンテンツは国民の物じゃないの? っていう。それがなんであんなに制限されなきゃいけないのかという根本的な疑問があるんです。NHKは最初からコピーフリーで放送しなきゃおかしいと思うんですよね。

 あと、CMも本来は露出しなければ意味がないものですから、最初からコピーフリーにしてYouTubeでばんばんコマーシャルだけでも流しましょう、みたいにならなきゃおかしい。一律コピーワンスにしちゃったことで変な状況になってますよ。

椎名氏: 僕が知ってる限り、デジコン委員会では、放送事業者は「一律の運用が望ましい」と言ってましたけどね。華頂さんなんかは、「映画だけゼロにならないか?」ということを言ってたけど、それは現実的、技術的に難しいという話になった。

 そういう中で、EPNとコピーワンスのまだら運用……つまり、番組によってはEPN、ほかの番組はコピーワンスみたいな運用はできないのかという中間案も出たんですよ。ところが、そこは放送事業者がのめない。「そんなことされたら番組の製作ができない」と。

小寺氏: でもそれって面倒くさいからってことですよね。要はね。

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