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ダビング10の向こうに光は見えるのか対談:小寺信良×椎名和夫(最終回)(3/6 ページ)

» 2007年11月08日 08時30分 公開
[津田大介,ITmedia]

――間違いなく、面倒くさいからですね。

椎名氏: 放送局からすれば、コピー水準が番組によって異なれば、ギャラも変えなきゃいけないとか処理がとにかく煩雑になるという部分があるんじゃないですか。

小寺: ああ、それは言い訳ですよ。議事録でもそういうことを放送事業者が言ってるのは確認してます。でも僕ね、昔は映像編集マンで、実際にデジタル放送が始まるタイミングで番組を作ってましたけど、デジタル放送になって僕のギャラが変わったかって、一切変わらなかったですよ。

一同: (笑)

小寺氏: むしろ安くなっちゃいました。なんじゃそらっていう。

椎名氏: それは問題だよね(笑)

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放送局が柔軟な著作権管理運用に及び腰なワケ

小寺氏: 僕が編集マンやってた時代、地上波はアナログでBSが先にデジタル化されてコピーワンスが入ってきました。そのときに結局何が変わったかというと、アナログの番組の「抱き合わせ」としてBSの番組の編集仕事が入ってきちゃって、労働単価としてはむしろ下がったんですよ。

 だから決してコピーワンスになるとギャラで何らかの交渉があるとか、EPNだから契約が違いますとか、少なくともそんな話は現場では一切ないと思うんです。で、最近はMXテレビに番組出演したりしてたんですけど、出演する際に「コピーワンスですからね」とか、そんなことを書かれた契約書にサインするなんてことはまったくないわけですよ(笑)。

 向こうから「出てくれませんか?」って依頼が来て、こっちが「いいですよ」みたいに答える。単なる口約束。もちろん僕はタレントじゃなくて文化人枠で入っていて所属事務所がないってこともあるかもしれないけど、じゃあ芸能人ならめちゃくちゃ厳密に「EPNだから契約が変わります」とかそういう風にやっているかというと、それはないと僕は思いますね。

 逆にアナログのときはコピーフリーだったものが、デジタル放送になってコピーワンスになったからコピーされにくくなりました。だからギャラは下げてくれませんか、みたいな交渉だってなかったわけです。現場は関係ないんですよ。どういう運用になろうが。

――現場の忙しさを、これ以上煩雑にさせないための方便として使われている可能性がありますよね。

椎名氏: もうひとつ、放送事業者側の理由としてあったのは、番組によって運用を変えてやると、局側にそれなりの施設改修が必要になる。それが大変だという話は確か出てたかな。

小寺氏: ああ、それはあるでしょうね。何で運用が大変かっていうと、今のテレビ番組って「送出サーバー」から送られるんですけど、それと別に「CMバンク」というものがあってそれらをマスタースイッチャーに接続して、切り替えて出してるんです。で、コピーワンスのフラグって、スイッチャーの後のMPEG-2にエンコードするところでかけてるんですよ。だから、局側としたらそこの部分の機械1個で済むというメリットがあるんです。

 全部の最終的なマスターの出口のところで「グッ」っとコピーワンスをかけて出すだけ。でも、いろいろな番組によって運用を変えるということは送出サーバーに番組を入れているその状態のときにすでにそういうフラグを立ててなきゃいけなくなる。

椎名氏: ああ、そういうことね。

小寺氏: そうなると、そのフラグは誰が立てるかっていうと民間で番組を編集して作ってるポストプロダクションに任せるか、番組納品されて局でビデオサーバーに流し込むとき立てるしかないんです。ポストプロダクション全部に「フラグを立てるための機械を買ってくださいね」って話はどう考えてもキツい。

 そうなると、局で納品時に面倒を見ることになる。当然人的なミスだって起こるでしょうから、なるべくそういうリスクを背負いたくないということでしょう。

――放送局が番組ごとの運用を拒む理由として、それはとても分かりやすい話ですね。

椎名氏: 僕もその話は聞いたことがあります。小寺さんのおっしゃるマスターの送り出し機械ってのは、なんか東芝とNECだけが作ってて、そこの部分の施設改修費用が結構かかるみたいですね。

――話を聞いていて思ったんですが、素人意見として言っちゃうと、マスターのコピーワンス信号入れて出す機械の出口のところにタイマー切り替えみたいな装置を付けて「ある時間からはEPNにします。次の番組はコピーワンスです」みたいに自動切り替えにすればポストプロダクションへの負担なしで放送局だけで対応できるんじゃないかって思ったんですけど……。

小寺氏: ああ、なるほど……。うーん。それも多分技術的にはあり得ますね。というのは、もともと放送って番組自動送出システム(APS)というものがあって、いわゆるタイマーで「何時何分からはどこの番組を出します」という情報がプログラムされてリストになって、それによって一日中映像が出力されているわけなんです。

 だから、番組自動送出システムと、津田さんの言うタイマー式スクランブル装置を連動させればいいわけで技術的にはできそうな話ですね。ただ切り替えのタイムラグとか、どこまでリアルタイム処理が可能なのかといった実務レベルでは色々あるかも知れませんが。

――さっきから、ずーっと出口のない議論を聞いていて僕が思うのは、そもそも文化的にコピーは一切認めたくない映画業界は、コピーワンスなりコピーネバーにしちゃって、そうではない公益性の高い報道番組みたいなものは最初から全部コピーフリーになっていたり、アニメは3回までOK、音楽番組は9回までOKとか、そういう秩序が徐々に浸透していけば、それはそれで消費者も受け入れやすいんじゃないかなと思うんですよね。

小寺氏: ただね。放送局側がそのリスクは避けると思います。なんでかっていうと、プログラムミスで本来はコピーワンスの番組だったのに間違ってEPNとして送信しちゃったら責任問題になっちゃうじゃないですか。

椎名氏: 下手すりゃ多額の賠償問題に……。

――そうかー。ディズニーみたいに権利にセンシティブな会社のコンテンツをまかり間違ってコピーフリーで放送しちゃったものなら……。

小寺氏: そうなんですよ。補償問題になるので、そこの部分のリスクは徹底的に避けると思います。そのリスクを負うくらいなら、作ってる時にフラグ立ててくれよみたいにリスクを分散すると思うんですよね。

――でも、それならポストプロダクションの方のリスクも相当なものになりますよね。で、放送局側もあくまでリスクを分散しかできないわけで、それだったらまだ一律EPNの方がマシじゃないですか。

小寺氏: そうそう。だから放送局側からしたら、一律の運用しか現状は選択できないんだと思いますよ。

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