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「スピーカーにストロー」の発想――ソニー「PFR-V1」の生まれるまで(1/3 ページ)

» 2007年11月14日 08時30分 公開
[野村ケンジ,ITmedia]
photo PFR-V1

 ヘッドフォン然としたスタイルと、耳の前方に小型スピーカーを置くという斬新なスタイルによって、ヘッドフォンの手軽さとフロアスピーカーなみの確かなステレオイメージを両立したソニー「PFR-V1」。

 「パーソナルフィールドスピーカー」という聞き慣れないコンセプトが示すとおり、これまでにおよそ類のない、エポックメイキングな製品だといえる(→レビュー:おひとり様が楽しい“スピーカー”、ソニー「PFR-V1」)。

 PFR-V1に僕も1週間ほど触れることができたのだが、その間は使えば使うほどよく考えられた造りにただただ驚くばかりだった。これを作り上げた人たちは、こんな発想をどうやって思いついたのだろう。それに、この斬新な製品が具体化される過程には、技術的だけでなくマーケティング的にもかなりの苦労が伴ったはずだ。どのようにして数々の難関をクリアしていったのだろうか。

 先日、運良くPFR-V1の開発者とお会いする機会ができたため、あまたの疑問を投げかけてみた。どんな苦労話が聞けるのだろうと期待していたのだが、意外や意外、僕の勝手な想像とはまったく異なる、いかにも楽しそうなエピソードを聞くことができた。

「スピーカーにストロー」の発想

 取材に対応していただいたのは、オーディオ事業本部のACC担当部長である山岸亮氏と、同事業部シニアエンジニアの山口恭正氏。肩書きを見ていただければ分かるとおり、お2人ともプロジェクトを管理したり、技術的なアドバイスをする立場の人物だ。しかし、PFR-V1はこの2人が中心となって作り上げたのだそうだ。

photophoto オーディオ事業本部 ACC担当部長 山岸亮氏(左)、シニアエンジニア 山口恭正氏(右)

 「僕自身が1モデルのプロジェクトリーダーをするのが久し振りでしたし、山岸と組んで仕事をするのは15、6年振りかもしれません。普段は他のカテゴリーも含めてコストとかコンセプトを、もっと全体的に見る立場にいますので」(山口氏)

 そのような立場の人たちが、なぜ製品開発の中心を担ったのだろうか。

 「昔からこういう変わったものは、大体、僕に回ってくるようになっています(笑)。というのは半分冗談ですが、まったく新しいコンセプトの製品を手がけるときは、経験に基づく知識が重要だったり、プランニングや他部署との調整などが必要な場面が多々あるので、僕のような立場の人間が必要となるのかもしれません」

 「僕は今まで、ヘッドフォンや小型スピーカー、マイクロフォンの設計だけでなく、MDディスカム(MDに動画を記録するディスクカムコーダー)や車載用の純正バックカメラの設計など新しいコンセプトの製品を数多く世に出してきました。変わったところでは、航空機のパイロットがコックピットで使用するヘッドセットやバイノーラル録音用マイク付ヘッドフォンなども商品化しました」(山口氏)

 久々の現場は楽しかったですよ、と話す山口氏。それにしてもこのユニークな発想はどこから誕生したのだろうか。そのあたりを開発を担当した山岸氏に尋ねてみた。

 そもそものきっかけは、小型スピーカーの特性を生かした新しい製品が作れないかを考え始めたことでした。私は近年、SRS-AX10などPC用コンパクトスピーカーを手がけているのですが、それらの製作過程で小型スピーカーの優位性を強く感じたんです。

 スピーカーは小さければ小さいほど不要な反射波が少なく、音響特性的に有利となる面があるため、一般的なスピーカーシステムに比べると、コスト面でも音質面でもかなりの優位性を発揮できます。それをもっと突き詰めていけば、小さくて音の良い画期的な製品が生み出せるのではないか、そう思い始めました。(山岸氏)

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