パラマウント映画「ドリームガールズ」のハイビジョン・ソフト。ぼくはBD版がアメリカで発売されてすぐ入手したが、現在入手できるのはHD DVDのみ。先日の東芝の発表により、HD DVDソフトは先が見えにくい状況になったが、ぼくはこの作品の国内盤BDを入手できる日が来ることを期待している。何はともあれ、昨年購入したHDソフトの中で、もっとも多く繰り返し観た、パーソナル・ベストワン作品である。
時代は1965年から1972年まで、舞台はデトロイトからロサンジェルスへ。「ドリームガールズ」は、モータウン・レコードのダイアナ・ロス&シュープリームスのサクセス・ストーリーの光と影に材を採ったミュージカルを映画化したものだが、まず何といってもキャスティングが素晴らしい。
本作でデビュー、06年度アカデミー助演女優賞を獲ったエフィ役のジェニファー・ハドソン、エフィの後釜としてグループのリード・シンガーとなるディーナを演じるビヨンセ・ノウルズ、グループの切れ者プロデューサー、カーティス役のジェイミー・フォックス、放蕩無頼のソウル・シンガー、ジミー・アーリー役のエディ・マーフィー、エフィの兄で才能溢れるコンポーザーC.C.を演じるキース・ロビンソン……。チャーミングなガール・グループ、ドリーメッツを巡る群像劇ともいえるこの作品で、彼らはじめ出演者全員がそれぞれの役どころを完璧に理解したと思える快演を見せる。
驚くべきは、吹き替え一切なし、すべて役者陣によって歌われる音楽の素晴らしさである。こんにちのブラックミュージック界を代表するビヨンセの歌がよいのは言わずもがなだが、その大スターを向こうに回し、堂々たる歌いっぷりで豊かな声を聴かせる新人ジェニファー・ハドソンに世界が驚いたのも無理はない。
リード・シンガーの座をディーナに奪われやる気をなくし、ステージをすっぽかしたりしてグループを追われるエフィを演じるジェニファーが、自分の男でもあったカーティスにすがりついて歌う「I am telling you I'm not going」の熱唱は、何度観ても、何度聴いても鳥肌が立つ。
彼女は、全米で人気の素人勝ち抜き歌番組「アメリカン・アイドル」で審査員に歌手になることを諦めるように言われた経験があるそうだが、このエピソードはちょっと信じられない。アメリカにはどれだけすごい歌手の卵がいるのだろうか。
ビヨンセは以前から好きなシンガーだったが、本作で歌われる「Listen」は、彼女の全キャリア中ベストとも思える素晴らしい出来。本当の自分を理解しようとせず、いつまでも人形として扱おうとするカーティスに別れを告げるこの歌での見事なソウル・ディーバぶりを、V30はじつに見事に表現した。
ビヨンセのリズム感のよさ、黒人シンガーならではの節回しのニュアンスの豊かさ、声の潤いをバタくさい音でほぼ完璧に聴かせるのである。やはり氏素性は隠せない、V30は間違いなくアメリカ生まれのオーディオ製品だと実感した。
ボーズデジタル処理された緻密なサラウンド音場の描写も素晴らしい。彼女が歌い始める前に、カーティスと豪邸で食事を摂るシーンがある。2人の別れを暗示するように小さく雨音が聞こえ、それが雷鳴に変わり、「Listen」の名唱へと続くその卓越したサウンドデザインを、V30は見事に描ききる。かそけき雨音から爆発的なビヨンセの歌まで、ダイナミックな表現力で観る者の心をつかんで離さないV30ってちょっとすごいかも、と感動してしまった。
ベースモジュールとメディアセンターを上手に隠し、各サテライトスピーカーをつなぐケーブルをうまく処理できれば、ボーズのLifestyleシリーズは、最強のリビングシアターシステムになるはずである。
執筆者プロフィール:山本浩司(やまもと こうじ)
1958年生まれ。AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」(ともにステレオサウンド刊)の編集長を務め、昨年秋フリーとして独立。マンションの一室をリフォームしたシアタールームで映画を観たり音楽を聴いたりの毎日。つい最近20数年ぶりにレコードプレーヤーを新調、LPとBD ROM、HD DVDばかり買ってるそうだ。
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