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2012年のテレビ(2) 映像作品を楽しむなら、この2製品本田雅一のTV Style

» 2012年12月20日 15時40分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 テレビを映画などの映像作品を楽しむ”ディスプレイ”と捉えた場合と、テレビ放送を中心に大衆娯楽へとつながる窓として捉えた場合では、製品の評価が変わってくる。前回のコラムで触れた東芝の取り組みは、ディスプレイとしての究極を狙ったものではなく、いまだに映像コンテンツとして大きな存在感を放つ”テレビ放送”を、「もっと、もっと楽しもうよ」というところからスタートしている。

 ”テレビ”という映像エンターテイメントを楽しむならば、ネットワークサービスへの対応やタブレット/スマートフォンとの連動も含めて、東芝ほど力を入れて前へと進んでいるメーカーもないが、一方で”ディスプレイとしてのすばらしさ”を求める声もまた、異なるニーズとしてはある。

 では、”テレビ受像機”よりも”ディスプレイ”の方に比重を高く置いた代表機種は? となると、昨年の“BRAVIA”(ブラビア)「HX920シリーズ」に続き、今年は「HX950シリーズ」となるだろう。

直下型LED部分駆動の威力

ブラビア「HX920シリーズ」の55V型

 いまや稀少な存在となった直下型LED部分駆動、すなわちパネル背面に多数のLEDを配置し、その明るさとパネルのコントロールを連動させることでコントラストを向上させる技術は、日立が独自設計・生産を終えた今、圧倒的な少数派になってしまった。そもそも、部分駆動は職人技ともいえる細やかな制御が伴わなければ、単なる“スペック番長”……名ばかりで画質への寄与がないまま終わってしまう。

 しかし、ソニーが「インテリジェントピークLED」と名付けた技術は、直下型LED部分駆動では、もっとも優れた振る舞いを見せる。部分的に明るい場所がある場合は、輝き部分のLED輝度を引き上げるなど、暗部だけでなくピーク輝度の表現も巧みだ。

「インテリジェントピークLED」の動作イメージ(出典:ソニー)

 さすがに真っ黒な背景に花火……といったシーンでは、花火の周りにぼんやりとした光(Halo:ハロ)が見えてしまうが、Haloの出現レベルや、一般的な映画、ドラマなどのシーンにおける目立ち度は、業界内で最も低い。

 また、背景の暗さに引っ張られ、被写体(例えば俳優の顔)が暗くなるなどの弊害もない。部分駆動を搭載する製品に中には、Haloの発生を抑えるため、映画視聴用の画質モードでは積極的にコントラスト拡張を行わない、といった本末転倒な製品も見られるが、HX950シリーズ(前モデルのHX920シリーズも同様に素晴らしかった)は違う。映画用の「シネマ1」「シネマ2」に設定しても、きちんとLED制御を行い、真っ黒な場面では完全にLEDを消灯するところまで行う。

 これらに加えてバックライトスキャンを巧みに組み合わせた4倍速表示や、超解像処理の「X-Reality PRO」を組み合わせ、ディスプレイとしての素晴らしい性能を備えている(もちろん、テレビ機能やネットワーク接続機能も必要な分は内蔵しているが)。願わくは来年以降も、このラインを消滅させずに続けてほしいものだ。

 ソニーの上位製品といえば、今年は84インチの4K2K IPS液晶を採用し「KD-84X9000」も話題となった。168万円という価格で、購入者は限られるだろうが、今、このタイミングで4K2K入力が可能な巨大ディスプレイを出したらことは評価したい。

84V型の4Kパネルを搭載した「KD-84X9000」

 デザイン、薄さ(に加えて剛性感もある)、音質など、さまざまな面で高級AV機器としての存在感を出しているのは、ソニーの物づくりの巧さだろう。エッジライトのため、インテリジェントピークLEDのようなコントラスト感はなく、IPS液晶のために絶対的なパネルコントラストもやや不足しているが、視野角などの総合的な使い勝手を考えれば、LGディスプレイ製IPS液晶を使ったのは正解だったと思う。

 もっとも、これらは車でいえば“GT-R”のようなもので、量産車でどこまでスポーティーな車を作れるか? を競っているようなものだ。もっと普通の乗用車と同じ使い勝手や外観なのに、でもディスプレイとしての優れた面を見せる。車でいえば、フォルクスワーゲンのRシリーズのようなもの。そんな製品を挙げるなら、パナソニックの最新プラズマ、VIERA(ビエラ)「ZT5シリーズ」だと思う。

着実に改良を重ねたパナソニックのプラズマパネル

 ”今さらプラズマ?”と思う読者もいるかもしれないが、家庭で映像作品、とくに映画を楽しむのであれば、プラズマディスプレイは今でも優れた面を持つ。国内では唯一、プラズマテレビの生産に取り組んでいるパナソニックの不調や、次世代パネル開発を見送りか? といったニュースから、プラズマという言葉に過剰反応をする傾向はあるが、今年のパナソニック製プラズマディスプレイパネルは、かつてのパイオニア“KURO”を超える面もあると思う。

ビエラ「ZT5シリーズ」

 筆者は初代KUROの「PDP-6010HD」を個人的に使用している。製品単価が100万円だった当時と今では単純比較はできないが、VIERAでは前面フィルターのさらなる改良や発光制御の改善、電極構造の改良などを重ねて、滑らかな階調表現を持つに至った。

プラズマパネルは放電回数で明るさを制御できるが、ZT5シリーズでは、1回あたりの放電を従来の1/4とする微弱放電を可能とし、微妙な明るさの違いを表現する(出典:パナソニック)

 プラズマはその駆動方法で、明るい場所、あるいは暗部など、ある程度、重視する階調領域を決めて設計しなければ良い画質にならないが、ZT5シリーズはその両方で良好な階調性を示す。コントラストの数値に惑わされがちだが、スペック値のコントラストは(向上しているものの)ここでは考えなくていい。”画の質”という面で、昨年に比べて大きく進歩している点は注目しておきたい(続く)。

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