ITmedia NEWS >

“クールジャパン”最前線、テレビ局のコンテンツ輸出に変化の兆し麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/3 ページ)

» 2013年05月14日 14時59分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

テレビ番組コンテンツのトレードショー「miptv」(mip:Market、International、Program)が今年も4月上旬に仏カンヌで開催された。ここでも近年、急速に中国や韓国の存在感が増しているが、今年は日本にも官民挙げての新しい試みがみられた。番組輸出というクールジャパンの最前線について、AV評論家・麻倉怜士氏のリポートをお届けしよう。

「miptv」会場では、中国や韓国の放送局が存在感を増している

麻倉氏: 昨年に続き、放送局のための番組トレードショー「miptv」取材のため、4月8から11日までフランスのカンヌに行ってきました。私のほかに日本のジャーナリストは1人しかいませんでしたが、非常に面白い話が聞けたのでリポートしましょう。

 1962年に始まったmiptvは、今年で50周年を迎えます。初期は欧州の放送局だけの集まりでしたが、現在では世界100ヵ国から1万1000人以上の放送局/プロダクション関係者が集まる大きなイベントになっています。そんな昔からコンテンツの見本市があったこと自体が驚きですが、考えてみれば日本でもテレビ放送が始まったころは、「奥さまは魔女」や「ローハイド」といった米国の番組で占められていました。それと同じことが世界中で行われています。1980年代には日本のアニメが世界を席巻し、ヨーロッパにも進出したことは有名です。

 日本のテレビ市場は内需が大きく、以前はあまり海外に目を向ける必要はありませんでした。しかし、ここへきて国際化に拍車がかかっています。2009年4月にはテレビ東京がアニメの輸出を強化し、テレビ朝日は2011年7月にコンテンツビジネス局に「国際ビジネス開発部」という部署を設立しました。日本テレビは2011年11月にコンテンツ事業局の中に「国際事業局」を、2012年7月には「海外ビジネス推進室」を作っています。昨年発表した中期経営計画では、「海外における確固たるポジションの獲得」が4番目に挙げられているほど。このようにいま、各局が力を入れ始めたのですが、今後どのように戦っていくのでしょうか。その鮮やかな動きが見えたのがmiptvの収穫でした。

――どのような動きがあるのでしょう

麻倉氏: 例えばテレビ朝日は、5年ほど前にインドに進出しました。現地で「ドラえもん」と「忍者ハットリくん」を放送して成功しています。「忍者ハットリくん」にいたっては、現地からの要望で新作を作り始めたほど人気があるそうです。日本でコンテを作り、現地で制作するというスタイルですが、この新作は日本でも5月からテレビ朝日系のCS局で放送がスタートします。

 テレビ朝日のスタッフに話を聞くと、インドでは子どもたちにお母さんが物語を聞かせる風習があり、ほのぼのとしたコンテンツが受けるそうです。また、日本と同じように「人がいなくても、おてんとさんが見てるからちゃんとしなさい」といった教育をするようです。そうした国民性が合致したのではないかと話していました。

展示会場(左)。フジテレビブース(右)

 一方、スペインでは「クレヨンしんちゃん」が人気です。1996年に単行本が出版され、2000年にテレビ放送をスタートしたところ、人気が出てこれまでに1000話以上を放送しています。こちらは現地の放送局やその企業グループがブックフェアやファンパーティーを開いたりと、現地で人気盛り上げの努力をしていることも大きい。テレ朝の担当者は「日本の放送局はパートナーをしっかりと選び、長期的に取り組むことが重要なテーマではないか」と話していました。

 テレ朝では新しい動きも出てきます。これまでは番組そのものを輸出して現地で吹き替えを行い、放送するスタイルでしたが、最近ではアジア向けに「フォーマット輸出」(番組コンセプトや制作手法をリメイク権とともに販売する形態)が盛んになりました。国内でも人気の「30人31脚」(二人三脚の大人数版)は、フォーマットに基づきタイやベトナムの放送局で製作され、人気です。集団で一致団結して1つの目的を目指すといった美学はアジアに合うようです。一方、欧米では「ケガをしたらどうするのか」といった懸念が先にきて「保険をどうするか」など、なかなか先に進みません。テレビ番組は土地柄にあったものが受け入れられるようです。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.