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家電が驚くべき進化を遂げる! シャープの「生物模倣技術」とは?滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/3 ページ)

» 2014年02月19日 14時13分 公開
[滝田勝紀,ITmedia]

 「生物模倣技術」という言葉をご存知だろうか? 自然界に生息する生き物の機能や仕組みを参考にして、新たな技術の開発や性能向上に結びつける技術のことだ。そしてここ数年、「生物模倣技術」を家電分野に積極的に取り入れているのがシャープである。

 シャープは、「イルカ」「アホウドリ」「トンボ」「ネコ」「アサギマダラ(蝶)」といった動物や昆虫を参考にした製品を送り出している。今回は、そのキーパーソンであるシャープ、ネイチャーテクノロジー推進プロジェクトチームのチーフ、大塚雅生氏に「生物模倣技術」を取り入れるきっかけから成果まで詳しく聞いた。

シャープ、健康・環境システム事業本部要素技術開発センター第二開発室主任研究員、ネイチャーテクノロジー推進プロジェクトチーム チーフの大塚雅生氏

 シャープの研究員である大塚雅生氏は、元々専門分野であった「航空工学」を使って、エアコンのファンの送風効率をそれまでの倍以上に引き上げた人物として、シャープ内でも一目置かれる存在であった。だが、そんな彼は2007年にロングパネルを採用し、空気の流れを効率化すると同時に大幅な省エネ化を実現したものの、一人もがき苦しんでいたという。大塚氏は、当時のことをこう振り返る。

 「NASAの技術などを使った翼型の知識などを参考に、すでに最大限の成果を出した後だけに、もはや1%効率を高めることも困難というぐらい限界を感じていました。土日も休みなく、いくら考えても、どうにもならなかったですね」

 そんな時、彼は現実逃避と癒しを求め、水族館のイルカを見に行こうとした。しかし、一応は勤務中。結局、足を向けたのは水生生物の学会だった。

 「上司などにも“次はどうすんねん?” と迫られていましたけど、正直もうネタ切れでした。だから、とにかく発想の転換を図りたいと上司に伝え、今までさんざん空気について学んだので、これからは水だとか、これまで機械を研究したから、これからは生物だとか苦し紛れに言って。勤務中だけど、とにかく会社から逃げたかったので、インターネットで“イルカ 学会”とか検索して……」

 ただ、わらをもつかむ思いで偶然出席した生物学会でのやりとりが、まさに目からウロコの連続だったと大塚氏。それはどういうことか?

 「それまで航空工学で学んだ常識を覆されるような学説が、さまざまな学者から仮説として語られていたんです。例えば、イルカの表面のしわは水との摩擦抵抗を下げるために、水の流れに垂直に入っているとか。どう考えても水の流れと平行に入っているほうがいいって考えるのが普通じゃないですか。さらに、イルカは水のなかで瞬間的に時速50キロで泳げるのに、そこに必要なはずの筋力量の1/7しか持ってないこととか。この仕組みは未だに解明されておらず、『グレイのパラドックス』と呼ばれています」。

 突破口を求めて、その翌年も同じ生物学会にも参加する。そこで語られていたのが、今度はアホウドリやトンボの生物だった。「ここでも完全に航空工学の常識を否定され、NASAの翼型よりも高効率な飛び方をするアホウドリのことが、まことしやかに語られていました。さらにトンボの翼断面がギザギザになることで、空気との摩擦抵抗が少ないことも知りました」。

 ただ、これらの情報をいきなり上司に進言することはできなかった。なぜなら、その学会でも語られていた内容は、真実ではあるものの、まだ解明できてないものがほとんどだったからだ。学者たちが口々に「この仮説でないと、辻褄が合わない」とか「解明できていないけど、こうならないとおかしい」とか言い合っている状態である。

 「上司にアホウドリを真似てプロペラを作ります! なんて言ったら、『お前がアホやろっ!』みたいなこと言われそうな雰囲気でしたし」(笑)。

 だが、大塚氏は「真実はここにある」と考え、とりあえず、見よう見まねでアホウドリの羽根の形を応用したプロペラファンを作ってみることにする。「どんなに鈍臭いプロトタイプになったとしても、もし本当に学会でいわれていることが真実であるなら、確実に1割〜2割は風量がアップすると思いました」。

 すると、驚くべき結果がすぐに出た。

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