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» 2014年10月22日 12時06分 UPDATE

ハイレゾの“空気感”を再現する極上のイヤフォン――ソニー「XBA-Z5」誕生の軌跡 (1/3)

「MDR-EX1000」以来、約4年ぶりにソニーから登場した新しいフラグシップイヤフォン「XBA-Z5」。新しい世代のハイレゾ対応イヤフォンとして完成させた本機の開発秘話を開発担当者に聞いた。

[山本敦,ITmedia]

 2010年に発売された「MDR-EX1000」以来、約4年ぶりにソニーの新しいフラグシップイヤフォン「XBA-Z5」が発売された。ハイレゾ・オーディオ再生環境の進化を目指すソニーが、新しい世代のハイレゾ対応イヤフォンとして完成させた本機の開発秘話を、音響設計に携わった鈴木貴大氏、ならびに商品企画担当の和田雄介氏に聞いた。

ts_sony5z01.jpg ソニー、企画マーケティング部門Sound商品企画部、企画1課プロダクトプランナーの和田雄介氏(左)。同じくホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部サウンド1部MDR設計1課の鈴木貴大氏(右)

ハイレゾの「空気感」を再現できるイヤフォンを目指した

 ソニーは昨年秋にハイレゾ・オーディオへの全力投球を宣言。ポータブルオーディオプレーヤー“ウォークマン”シリーズをはじめ、据え置き型コンポーネントやヘッドフォン、イヤフォンの「ハイレゾ対応」製品を充実させてきた。あれから1年の間に国内・海外のハイレゾ配信サービスから、さまざまなハイレゾ音源も提供されてきた現在では、ハイレゾの普及も広がるとともに、早い段階からハイレゾに慣れ親しんできたアーリーアダプター層の耳もだいぶ肥えてきた。

 「ハイレゾの人気が拡大する中、ユーザーの方々がハイレゾの再生機器やコンテンツに期待しているポイントが色々と見えてきました」という鈴木氏は、ハイレゾ特有の魅力である「空気感」を正確に再現することが、新しいフラグシップ・イヤフォンである「XBA-Z5」を開発するうえでの大きなテーマだったと振り返る。

ts_sony5z02.jpg ソニーの新しいフラグシップイヤフォン「XBA-Z5」

 音楽再生の「空気感」とは何を意味するのだろうか? 鈴木氏はそれを「間接音や微少な音など、メロディの周りにある、生き生きとしたリアルな音楽の雰囲気をつくり出すために重要な要素」だと説く。音楽の周囲にある「空気感」を再現すること。「Z5」は未だかつてない高音質化への領域に重要な一歩を踏み込んだのだ。

 こうして「Z5」の開発がスタートしたのは2013年の9〜10月頃。それから約1年をかけて開発が進められてきた。中低域の再生を担う16ミリ口径のダイナミック型ドライバーを1基に、バランスド・アーマチュア型(BA型)のドライバー2基を組み合わせるという「HDハイブリッド3ウェイドライバー」の方式は昨年発売された最上位イヤフォン「XBA-H3」を踏襲している。再生周波数帯域は3〜4万Hz。音づくりの面では「空気感」というキーワードも出てきたが、サウンド全体の味付けはどのようにチューニングされているのだろうか。

 「最近のハイレゾ再生のトレンドとしては“低域”が重視されていると考えています。ただ、やみくもに量感を盛るのではなく、低域を中心とした正確なリズムの再生を追求することがXBAシリーズのテーマです。クリアで解像感の高い低域に、そこにハイレゾの空気感を合わせるようなチューニングを行っています」(鈴木氏)

構造自体が大きく進化した「リニアドライブ バランスド・アーマチュアドライバー」

 今回の新しいイヤフォン「XBAシリーズ」には新開発の「リニアドライブ バランスド・アーマチュアドライバー」が搭載されたことが大きな特徴だ。音楽再生の“リニアリティ”、つまり入力された信号に対して正確に音を鳴らすパフォーマンスを高めるため、アーマチュアドライバーの構造が大きく見直された。

ts_sony5z10.jpg ソニー独自開発のBA型ドライバーの構造を紹介するための模型も用意された

 通常BA型ドライバーは「アーマチュア」と呼ばれる磁性合金で作られた板の周囲にマグネットコイルを巻き付けて、電気信号を流すことで先端がN極/S極に変化する。その先端に固定磁石のブロックをはめ込むとアーマチュアが上下に振動して、アーマチュアに連結された振動板が震えることで、ユニットを格納するボックスに開けられた穴から音が生み出されるという仕組みになっている。

ts_sony5z14.jpg アーマチュアの周囲に巻き付けられたマグネットコイルに電気信号が流れて先端がN極/S極に変化。その先端に固定磁石のブロックをはめ込むとアーマチュアが上下に振動して、アーマチュアに連結された振動板が振動する

 ソニーでは、独自開発のBAドライバーユニットに大きな2点の改良を施した。1つはアーマチュアの形状だ。これまでアーマチュアは「U字型」をしていたが、180度曲げられている部分の影響により、上下運動の際にわずかな振れ幅の誤差が生じて、振幅が対象でなくなることが徹底的に解析を行ったことで明らかになった。振動の対称性を高めるために、新しいXBAシリーズではアーマチュアの形状を「T字型」とした「シンメトリックアーマチュア」を採用したことで、特に中高域のリニアリティが高まっている。

ts_sony5z11.jpg 「アーマチュア」の形状を比較するパーツ。左が従来のXBAシリーズに搭載されているアーマチュアで、右が新しいXBAシリーズが採用する「シンメトリックアーマチュア」

ts_sony5z12.jpgts_sony5z13.jpg 従来のアーマチュアはU字型をしているため、振動方向にわずかな非対称性が発生して、音のリニアリティに影響を及ぼしていた(左)。「シンメトリックアーマチュア」はT字型として上下の動きを対称にできることから、波形の再現性が高まり、リニアリティも向上する(右)

 もう1つ、「ドライバーロッド」と呼ばれる、アーマチュアと振動板を連結する小さな棒状の金属にもメスを入れた。アーマチュアと振動板を直接つなぐ「ダイレクトドライブ構造」により、ロッドの特性から発生するロスを大幅に低減することに成功した。これにより本来の音源に含まれる情報量がありのままに引き出され、「空気感」の再現力アップにもつながっているという。「このようにデバイスから作り込んで、最終商品の形に合わせ込めるのがソニーならではの強み」だと商品企画の和田氏は胸を張る。

ts_sony5z15.jpg アーマチュア(黄色い部分)の振動を直接振動板(青色の部分)に伝えるためのダイレクトドライブ構造を採用。振動ロスが大幅に低減しているという

 今回の取材期間中に「XBA-Z5」を借りて試聴する機会を得た。そのファーストインプレッションはとにかく、音の鮮度がこれまで聴いてきたイヤフォンと一線を画していた。

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