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ポタフェスは「音版コミケ」? そして気になる今後――「ポタフェス Limited」ロングインタビュー(後編)(1/4 ページ)

» 2015年07月24日 18時32分 公開
[天野透ITmedia]

 各地域の特色をふり返った前編に続き、後編では「ポータブルオーディオフェスティバル(ポタフェス)2015 Limited」のイベント全体を振り返ってもらった。さらに全国ツアーの来年以降の構想、そして年末に「来客目標5万人」と過去最大規模を見込んでいる東京の「ポタフェス」。その根底にあるのは「もっと多くの人に良い音を楽しんでもらいたい」という、音楽人としての想いだ。

「ポタフェス2015 Limited」全国キャラバンを振り返る松田氏(左)と岡田氏(右)。話の内容は多岐にわたり、インタビューは1時間30分を超えた

「ニックネーム、呼び捨ても無礼講」会場はとてもフレンドリー

 全国8都市を巡るキャラバンではどの会場でも「来てくれてありがとう」「またやってほしい」といった歓迎の声が上がった。その光景はメーカーや販売店、顧客といった立場を超えた“オーディオファン同士”の集まりだ。

――今回のキャラバン全体を通して、一番印象に残ったことは何ですか?

岡田氏:来場者の方々の「待望感」ですね。名古屋で天野さんに書いていただいた記事のタイトルが「やっと名古屋に来てくれた」だったじゃないですか、あれがすべての地域で当てはまるキーワードだと感じました。

 ウチを使ってくれるe☆イヤホンファンの人は全国にいて、イベントをやってもちゃんと来てくれたんですよ。多くの人と話をして、どの会場でも“待ち望まれている感”を感じました。

 今は飲料水や紙おむつですらネットで買えてしまう時代です。フェイス・トゥー・フェイスで会話ができる機会はどんどん少なくなっているので、今回のイベントのような場があるととても歓迎されるんです。

松田氏:やはりお客さんもそこを望んでいると感じました。自分が興味を持っている同じ話題について、皆さんいろいろな人とあれこれ話したいんですよ。ヘッドフォンって基本的に“個人の趣味”ですから、地方では東京のように同じ嗜好の人が簡単には集まりません。そこへ今回、僕らがイベントという“核”を投下して、“個”だったユーザー同士が“群”になったところがあるのではないでしょうか。

岡田氏:ウチの社長(大井裕信社長)は「ふつうのコトをやっても面白くない」ってよく言うんです。専門店なので量販店と同じようにモノを売るだけではなく、知識やネットワークといったアドバンテージを上手く活かさないといけないんですよね。そういった意味で今回のキャラバンは、いい意味でお客さんの期待を超えたと思います。あえて東京を一回パスして、地方を巡ったことの意味は大きいですね。

――いくつかの会場に取材に伺いましたが、僕は「アキバ・ポンバシのイベントだな」と感じました。サブカルチャーの文脈に則った、コミケ的なイベントの匂いがしたように思います。

松田氏:コミケ的!、いいこと言ってくれますね! 実は第1回目のポタフェスを企画した時、最初に参照したネット情報がコミケだったんですよ。長い夢だけど、最終的には海外も視野にいれた“音のコミケ”みたいな場を目指していきたいなって思っています。

――好きなことを取材している自分はもちろん楽しくて、来場者も当然楽しんでいるんですけれど、それだけじゃなくて出展者さんも運営さんも、みんながポタフェスっていう場を楽しんでいました。この全員参加感がとってもコミケらしいなって思います。海外メーカーの開発担当の方でさえ、終始笑顔だったように見えましたよ。

松田氏:コミケらしいといえば、人と人との距離感が凄く近いと感じましたね。来場者の方に「たっくんいる?」「りょうたさんって何してるの?」と、ニックネームで聞かれた事が何度かあったんです。本人同士は一度も会ったこともないのに(笑)。そういう人たちはTwitterなどで既につながっていて、前夜祭や当日に「会いたかったんですよ!」って言われました。うちの場合、Webサイトでスタッフが自分のオススメとか素直な感想などを発信するので、お客さんとの心理的距離が近いんですよ。来場者がまるで友達のようにフレンドリーでした。

岡田氏:メーカーさんに対しても同じような感じですね。

大阪会場のAstell&Kernブース

松田氏:「(Mix Wave営業の)Mさんいますか」と、呼びかけて来るお客さんもいましたね。初対面なのに(笑)。こんなことは他のオーディオイベントではなかなか見ない光景ですよね。

新たな販路やコラボ企画など、出展者にも多数の刺激

 ブランド個々ではなかなかできない全国行脚は、多くの出展者にとっても実りのあるイベントになったようだ。広島の実例などを挙げつつ、岡田氏は今回の全国キャラバンを巡った出展者を“戦友”と表現した。

岡田氏:今回のイベントは地場の企業にも影響があったみたいです。例えばポタフェスLimitedがきっかけで、広島のエディオンさんではWestoneの取り扱いが始まりました。営業さんはキャラバンと同時に営業周りもするようで、地元企業を巻き込んでオーディオ文化全体を盛り上げる、そんな取り組みになりました。

 将来的な取り扱いアイテムの拡大を睨んででしょうか、高松ではなんとカメラのキタムラの方もいらっしゃいました。とあるメーカーさんが休憩に行ってる時、僕がブースの店番をしていたら「私、こういうものでして」と、メーカーさんと間違えて名刺を渡されました。家電量販店のバイヤーさんはもちろんのこと、オーディオに興味を持っている他業種の販売店などからも“見られている”と感じましたね。

松田氏:こういう全国キャラバンイベントって1ブランドだけでやろうと思うと相当厳しいと思います。しかし、多くのブランドが集まって連合軍を組むことでかなりやりやすくなりますし、イベントとしての価値も上がりますよね。

岡田氏:旗振り役がいると乗りやすいですし。企画を発表した時に「e☆イヤホンくらいしかできないよね」ということをよく言われました。メジャーどころからマイナーなものまで、世界中のブランドを扱うウチだからこそできたイベントだと思います。

 それから今回やって分かったのは、「そこまでコストがかかるわけじゃない」ということです。このあたりはメーカーさんにも好評で、実利的な“売り”に関しては、絶対数が多い東京とはどうしても比べられないけれど、PRイベントとして、試聴体験の場としてはかなり効果があるという声をいただきました。ブランド単体ではアプローチできない所も、みんなで行ってアプローチできたという意義は深いです。これはお金を出してもなかなかできないことなんですよ。

松田氏:お客さんとしても、ヘッドフォンやプレイヤー、カスタムIEMといった、普段はなかなか手に取ることができないものを全部聴けます。それも各カテゴリーごとに多様なメーカーがありますからね。こういったものを横並びで一斉に聴いた上で「やっぱりゼンハイザーだな」「うん、AKG」と、音の傾向やメーカーの色といったものを納得してもらえる機会にできましたね。

岡田氏:メーカーさん同士の交流も活発に行われました。普段はあまりお話をしないようなメーカー同士ともやりとりができて、その中から新しいタッグが生まれたり、ウチ(e☆イヤホン)とも話が通しやすくなったりといった、後につながるいい関係を作るキッカケになりました。お酒が入った前夜祭では、自社の商品を自慢しあうという光景も見られましたよ。基本的に皆さんオーディオ大好きな方たちですから、“同業者”であると同時に“同好の士”でもあるんですね。お互いに良いライバルとして刺激し合える環境ができたと思います。「8都市を巡った戦友」という感じですね。

――まるで大学のサークル間交流とか、学生連合のようなノリが垣間見えますね。いくつかの前夜祭には僕も参加しましたけれど、皆さんとても気さくで良い雰囲気でした。「自分と同じ、音が大好きな人達なんだな」っていう気持ちがひしひしと伝わってきましたよ。

岡田氏:その分僕達は頑張って旗を振りました(笑)。

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