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劇場アニメ「キンプリ」は何がすごいのか? “異例の大ヒット”を生んだ「応援上映」の正体宣伝担当が語る(2/3 ページ)

» 2016年05月01日 06時00分 公開
[村上万純ITmedia]
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成功の秘密は、進化を続ける「応援上映」

 当初は1カ月で上映を終えるはずだったキンプリだが、1月23日に新宿バルト9で実施したオールナイトイベントの「愛をいっぱい届けよう!プリズムスタァ応援上映」(以下、応援上映)から奇跡が始まる。応援上映とは、コスプレOK・サイリウムOK・声援OK・コールOKという、「映画館ではお静かに」という常識を覆す上映スタイルのこと。

一条シン 一条シン「みんなに、言いたいことがありま〜す!」(作中では字幕はないが、まるで観客に語りかけるようにキャラクターが叫ぶ)
なーにー? 観客「な〜に〜?」
コスプレ 声援、サイリウム、コスプレなどが許可される

 観客のアフレコ用に字幕が表示されたり、合いの手を入れやすいようなセリフを用意したりと、キンプリ自体が応援上映を意識した作りになっている。

 バルト9で最も収容人数の多いシアター9(429席+車椅子4席)がすぐ満席になったため、急きょシアター6(405席+車椅子4席)の枠を追加。こちらもすぐに席が埋まり、一晩で830人を動員した。

 柴田さんは「ちょうどオールナイトが開催された前後に、応援上映が何なのか分かる動画を公式サイトにアップしたのが良かったのかもしれません。これまでも何度か応援上映は実施していたのですが、まだ文化として根付いている感じではなかったので」と振り返る。

 「宣伝は、ネタバレにおびえず、あまり出し惜しみしませんでした。劇場内の様子を何シーンも公開できたのは、制作陣の理解が大きいです」(柴田さん)。

キャラと会話 泣いているキャラには「泣かないで〜!」と話しかける

 映画を見ながらライブのように盛り上がる上映スタイルは、11年に映画「けいおん!」で立川シネマシティが実施するなど、以前からも各所で行われていた。

 キンプリを生み出したスタッフたちを中心に応援上映のような参加型の上映を始めたのは、14年3月公開の「劇場版 プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン」から。その後、「劇場版プリパラ み〜んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」「とびだすプリパラ み〜んなでめざせ! アイドル☆グランプリ」とその試みを続けてきた。

 だが、「応援上映」の楽しさを知っているファンを中心に盛り上がるものの、キンプリほどの大きな手応えはなかった。

 オールナイトイベントでは「プリティーリズム」(以下、プリリズ)時代からの熱心なファンたちが中心となり、「現場にいた菱田正和監督が驚くほどの盛り上がりを見せていた」(柴田さん)という。

 柴田さんは「劇場側の協力も大きいです。独自に展示物を用意したり、スタッフの方が応援上映の前に発声練習をしてくださったり、各劇場にもキンプリファンの方が増えましたね」と話す。

 応援上映は、黄色い声援が飛ぶジャニーズのライブのような雰囲気もありつつ、今の若者には「ニコニコ動画を見るような一体感をリアルで体験できる」といった方が分かりやすいかもしれない。

 柴田さんはキンプリの応援上映を「音楽ライブの全国ツアー」と表現する。「ツアーの最初と最後で応援の仕方が変わっていることが多いんです。キンプリでは、応援上映の度に変化したり、応援上映のPVを公開した後も変わったりしていて。その移り変わりが、ファンの方と対話しているようで楽しかったですね」。

 例えば、ストリートダンスバトルをするシーンで、タイガがアレクサンダーに向かって「カヅキ先輩がお前に負けるわけねーだろ!」と叫ぶシーンでは、観客から「そーだ! そーだ!」という合いの手が入るのがお約束になっている。

バトルシーン カヅキとアレクサンダーのダンスバトルシーン

 しかし、柴田さんが公開した動画を見ると、当初は「そうだ!」「そうだ!」「そうだ!」と、まばらに声が挙がり、あまり統一感がない。何度も足を運ぶ観客たちと紹介動画、そして拡散してくれるファンとでコミュニケーションをとるかのように、自然と今の形になっていった。

そうだそうだ 最初はまばらだった「そうだ!」「そうだ!」の声

 他にも、ミナトがシンに向かって「君の嫌いな食べ物はなんだい?」と問う場面で、観客が「ピーマン!」「トマト!」「タマネギ!」と自分の嫌いな食べ物を次々と叫ぶのも恒例となっているが、最初は誰かが「ピーマン!」と叫んだことがきっかけだったという。

嫌いな食べ物 大喜利のように嫌いな食べ物を叫ぶ

 観客がTwitterで体験レポート漫画をアップしたり、ブログで応援上映の様子を紹介したりしたことで、「よく分からないけど、すごく面白い映画があるらしい」という声がどんどん広がっていった。

 大声を出せる解放感と、会場全体で作り出す一体感。そして、行く度に進化するライブ体験が応援上映の魅力だ。「この体験を誰かと共有したい」という気持ちが口コミに火を付けることになる。

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