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高齢化社会の課題に取り組んだエンジニアたち――「JDA 2016」(1/2 ページ)

» 2016年12月13日 09時00分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 今年も「第11回 ジェームズ ダイソン アワード 2016」(以下、JDA)の国内表彰式が開催された。JDAは、英Dysonの創業者であるジェームズ・ダイソン氏が次世代のエンジニア育成を目的に提唱した国際エンジニアリングアワード。テーマは一貫して「日常の問題を解決するアイデア」のため、応募者は問題を見つけるところから始めなければならないが、今年は奇しくも“高齢化社会”の課題に取り組んだ作品が国内審査の1位と2位を占めた。

受賞者の皆さんと審査員の林信行氏(前列右端)、田川欣哉氏(前列左端)

 JDAを主催する一般財団法人ジェームズ ダイソン財団によると、11回目となる今年は世界22カ国が参加、計936の作品がエントリーしたという。JDAでは、まず国ごとの審査員が作品を選抜し、最終的にジェームズ・ダイソン氏が「世界トップ20」とグランプリにあたる「国際最優秀賞」を選び出す。日本からは国内審査を通過した5作品が最終選考へと進み、国内最優秀賞を受賞した「Communication Stick」は世界トップ20に名を連ねた。なお、グランプリにあたる国際最優秀賞はリサイクル可能な「エコヘルメット」を作った米国在住のエンジニア、アイシス・シファー氏が受賞している。

高齢者が安心して外出できる杖

 「Communication Stick」は、プロダクトデザイナーの三枝友仁氏が開発した通信機能付きの杖だ。三枝氏は、介護施設でヒアリングを通じ、入居している高齢者たちがほとんど外出していないという実態を知った。理由は、「迷子」と「転倒」という2つの不安を抱えているため。「高齢者は外出するのが怖い。周囲に迷惑をかけてしまうかもしれないから。一方の施設は高齢者を外出させるのが怖い。ケガをさせるくらいなら……と外出を推奨することが困難な状況になっている」と三枝氏。

「Communication Stick」で国内最優秀作品を受賞したプロダクトデザイナーの三枝友仁氏(中央)
「Communication Stick」の試作機

 世の中にはGPSや通信機能を用いて高齢者を“見守る”ための製品がいくつも存在するが、実はそれもあまり利用されていない。「見守り製品は、一方的な監視と高齢者に受け止められてしまう」ためだ。

 そこで考えたのが、「見守りを双方向のコミュニケーションに発展させればいい」ということだった。「Communication Stick」は、通信機能や音声読み上げ機能を搭載した、いわば“スマート杖”。NTTドコモの音声認識APIとgoogleの「Gmail」を活用し、散歩に出た高齢者が杖に向かって話すと、音声を録音してクラウド上の音声認識機能に投げ、結果をテキストメールにしてGmailで送信する。施設の職員や家族などの被介護者はメールで状況を把握し、また介護者が送信したメールは、音声読み上げ機能で杖から高齢者に伝えられる。高齢者でも無理なく利用できるユーザーインタフェースを作り上げたのがポイントだ。

音声認識によるメール送信の手順

 もう1つの重要な機能が“転倒通知”。高齢者が何かの拍子で転倒してしまったとき、杖が自動的にアラートを発するというもので、被介護者は万が一に備えることができる。実はCommunication Stickにはジャイロセンサーが内蔵されており、その波形から転倒時の統計的な特長量を取り出し、高い精度で転倒を識別できるという。さらに転倒を検知すると位置情報を通知する機能も備えている。

転倒したときの波形
「Communication Stick」の試作機

 三枝氏は、「Communication Stickによって外出に伴う不安が軽減されれば、散歩や買い物に出かける機会も増え、高齢者の生活の質の改善につながる」と話す。今後については、「どんな形でも製品化したい」と意欲を見せた。国内審査員を務めたフリージャーナリストの林信行氏は、「ドコモのAPIにGmailといった“枯れた技術”を使ってアイデアを実現した作品。たくさんの人が使っているシーンを想像できたことが国内最優秀賞に選ばれた要因」と評価した。

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