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文化財を“標的”にしたのはWinnyかNews Weekly Access Top10(2004年5月30日−6月05日)

» 2004年06月07日 21時28分 公開
[小林伸也,ITmedia]

 巨大掲示板が「著作権を侵害中」という記事がぶっち切りのアクセス数でトップなった。

 騒動の発端は京都新聞による「Winnyの衝撃」と題した連載。この最終回では「京都の文化財、デジタル化で標的に」として、京都の文化財のデジタルアーカイブデータがファイル共有ソフトで不正使用の危険にさらされている、という問題を追った。

 記事では社寺の文化財の画像をデータ化して商品化するベンチャーが登場。記者は社長の発言に続けて、「『Winny』に代表されるファイル共有ソフトによる著作権侵害の横行に警戒感を示す」と記した。また「鳥獣戯画」などの絵画が「陶器の図柄などに無断転用される例が後を絶たない」とも報告した。

 これに対し、トップページに鳥獣戯画を使ったことがある2ちゃんねる側が反応。名画の写真は単なる複製だとして著作権は発生しないが、画家の著作権は働くという見解を紹介。また著作権は著作者の死後50年までとする著作権法の条文を掲載し、「京都の人、寿命長すぎ!」と応じた。

 例えば土門拳が撮影した仏像の写真のように、ライティング方法などで創作性を表現可能な立体物の写真には著作権が発生するとされる。しかし一般的に、絵画の写真などの場合は「単なる複製」として著作権は発生しない、とされている。

 複製権の他に、作者が嫌がるような改変などを禁止する著作人格権もある。これは永久権だが、「二子山古墳の埴輪の作者の著作人格権」を現実に問うのはおそらく難しいのではないだろうか。

 しかし、記事中で紹介されたようなデジタルアーカイブのデータにはやはり相当の対価を支払うべきだと思う。文化財の所有者との交渉やスキャニングなど、データ化にかかる人手とコストは相当なものだろう。「本来は著作権フリーだから」という理由でこうしたデータを自由に流通させてしまうと、今後は敢えて高品質なデジタルアーカイブを提供しようという企業は現れず、結局は私たちが不利益をこうむることにもなりかねない。

 (ただし私見では、国指定の文化財クラスであれば、国が率先してデジタルアーカイブ化を進め、改変不許可などとしたライセンスのもとに広く無料公開するのがスジだと思う。国宝や重要文化財などの保存のため、行政からは補助金も出ている)

 しかしこの問題、例えばデータベースについて「単なる事実を集めたに過ぎず、創作性がないので著作権もない」と判断されることがあるように、ITビジネスと著作権保護との考え方に生じている“ズレ”をめぐる一連の問題の一つとして考えたほうがいいんじゃないだろうか。現状の著作権法の見解を踏まえた上で記事を読む限り、Winnyと京都の文化財は必ずしも関係がないように思える。というか、Winnyの問題じゃないと思う。

 ただし、ブロック紙に勤めていたこともある記者個人としては、地方紙の雄である京都新聞側の事情もよく分かったりする。地方紙の場合、立ち位置は常に地元に置き、常に地元への影響を見渡していく視点が求められる。日刊紙で5回連載といえば結構な大作。最終回、やはり地元の話で締めたかったんだろうと想像はする。

 でも今、ネットと著作権の問題を真剣に考えているユーザーがナーバスになっているのは事実。もうちょっと論点は考えてほしかったかな、とも思う。

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