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「モノではなく英知を売る」日本SGIの最新ソリューションを知る

» 2004年06月17日 02時03分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 18日まで東京ビッグサイトで開催されている「第15回設計・製造ソリューション展」では、同業種に関連する最新のソリューションが惜しみなく披露されている。

 その中の1つに日本SGIのブースがある。日本SGIというと、同社の強みを活かして自動車メーカーなどの製造業を中心に展開してきた企業であるが、同社では、そうした市場を「レガシー」(守るべきものという意味で)とし、製造業を中心に全産業に応用可能なソリューションをノンレガシーな市場に向けてアピールしようとしている。

 これを分かりやすくいうなら、「レガシー」は米SGIのサーバを売っていくいわゆる箱売りのビジネスモデル、ノンレガシーはソリューションを売っていくビジネスモデルであるといえる。このノンレガシーなビジネスモデルが市場向けには「ブロードバンド・ユビキタス・ソリューション」という形で宣伝されることになる

 衝突解析や流体解析などのマーケットは開発期間の短縮のために投資が続いている分野であり、その意味ではレガシーを簡単に捨て去ることはできないが、従来のように高価な解析サーバを出すだけのハードウェアベンダーのスタンスから、より身近な形でソリューションを提供していこうというわけだ。では、同社が今回どのようなソリューションを提示しているか紹介しよう。

もうあのメガネはいらない。リアルタイムの裸眼立体視はノートパソコンにも

 同社は6月に入り、ケイ・ジー・ティー(KGT)と共同でシャープ製ノートPCを利用してリアルタイムの裸眼立体視環境を実現するソリューションを提供することを発表した。

 このソリューションは、日本SGIが独自開発したリアルタイムに3次元CGの表示を可能にする3D表示ドライバ「Interactive Stereo Library」(裸眼立体視ライブラリ)を、KGTが米アドバンスト・ビジュアル・システムズの提供する3次元可視化アプリケーション「AVS/Express」に組み込み、シャープが開発した3D対応の液晶を搭載したノートPC「Mebius PC-RD1-3D」上で稼働させるもの。

 リアルタイムの裸眼立体視システム自体はすでに存在するが、そうした製品は視点数が7視点あるなど、複数人でのコラボレーション用途を想定した大規模システムであり、価格も非常に高価であった。

 この視点数を減らし、ハードに対する負荷も下げたことで、ノートパソコンのような(大規模システムに比べれば)スペック的にも価格的にも低いものでリアルタイムの裸眼立体視システムを可能にしている。

裸眼立体視 Mebius PC-RD1-3D上で稼働しているAVS/Express。写真だと立体に見えないかもしれないが、実際は立体に見える(正確に言えば、飛び出してくるのではなく、奥行きがあるように見える)

音声認識は感情までも理解可能に

 同社のブースでは、音声認識のデモも行われていた。一般的に音声認識というと、「A」という問いに「B」という反応、いわゆる『型どおり』の反応しか得られず、どこかズレた反応が返ってくるようなイメージを持たれていることが多いのではないだろうか。

 たとえば、「ばかやろう」という言葉でも、場合によっては怒りの感情を伴うだろうし、親しみを込めた感情を伴うこともあるはずだが、そうしたときに常に同じ対応では、人間らしさなど感じられない。

 これは、既存の音声認識のプロセスが、入力された音声を文字情報に落とし込み、、それを語彙のデータベースとパターンマッチングし、合致するものに対して、あらかじめ決められた反応を返すというプロセスが基本となっているためである。かなり前に流行った「AI」は、if文でいくつかの条件分岐を設けたものと考えてもよいかもしれない。この場合は、分岐の数だけ反応時間が遅くなるため、これらをグルーピング化したものが「ファジー」であるといえよう。

 これに対して、日本SGIが提案するソフトウェア技術「ST」(Sensibility Technology)では、人の感性情報まで理解させ、それに応じた反応を可能にするという。では、どのように感情の起伏まで読み取っているのだろうか? 日本SGIはこの部分については企業秘密としている。判明しているのは、同社が共同開発を行っているAGI社の技術が生かされていることだけだ。

 会場のデモでは、話者の怒りの発話にコンピュータ側も応え、激しい口喧嘩になるという、人間らしい応答を実現した様子が示された。

Sensibility Technology STのデモ。SGI社員と壮絶な口論を展開する画面の女性。背景色もそのときの感情によって色が変わっている。

NetBSDベースの監視カメラソリューション

 また、先日発表されたばかりの「ViewRanger」を使った監視カメラソリューションも紹介されていた。

「ViewRanger」。こちらは200万画素のCMOSを内蔵するモデル。LANコネクタはついておらず、CFカードを利用した通信を行うことになる。重さは約90グラム。

 同製品は、OSにNetBSDを採用した名刺サイズの監視カメラ。利用形態にあわせて無線LAN、LAN、PHS、FOMAなどの通信装置を利用できるほか、フレームレートの設定やイベント検知後、どのようなアクションをとるかなど、各種設定がWebブラウザから行えるようになっている。

 では、既存のアナログカメラやWebカメラ、IPカメラなどとの差異はどのあたりにあるだろう。一言でいうなら、単体でも24時間365日の稼動を可能にすることだろう。ほかのソリューションがバックエンドに監視データの保存用、またはシステム制御用のサーバを必要とする一方、ViewRangerであれば単体での監視システムの構築も不可能ではない。監視データを名刺サイズの本体内部に保存することも可能である。また、音声の入出力端子も備えているため、必要であれば、現場の音声の録音や、警告などを促すこともできる。

 こうした利点から同社が想定する利用パターンとしては、例えば無人施設の遠隔監視がある。不審者の侵入などを検知し、監視データとして映像を保存したり、担当者にメールを送ることなどが可能になる。そのほか、河川の氾濫などの自然災害や不法投棄の遠隔監視などにも利用できるだろう。

 このほか展示されているソリューションとしては、「VizImpress」を使ったデモや、先日発表されたWindowsベースのグラフィックスPCクラスタが公開されている(6月10日の記事参照)。

 VizImpressでは、縮尺の異なる10個の画像データが折り重なるような感じで構成されており、高解像度の画像データの拡大/縮小をスムーズに表示できる。朝の某ニュース番組で、タッチパネルを操作しながらその日の新聞の見出しなどを紹介するシーンをご覧になった方もおられるだろう。デモではPentium IIIのPCで同ソリューションを動作させているというが、今日では比較的ローエンドのマシンで高解像度の画像データが気持ちよく動くのを見ると驚く方もいるだろう。

ソリューション・インテグレーターとして「知恵」をアピール

 日本電気(NEC)が日本SGIの株式の40%を取得し、NECが米SGIとともに筆頭株主となったのが2001年の秋。このときNECソフトも20%取得しているため、事実上、日本SGIはNECグループとして、米SGIとは独立したオペレーションを行っている。しかし、もともと強みとしているグラフィックス関連の部分を捨て去ったわけではなく、それらを生かしつつ、さまざまなソリューションを展開しつつあるのが現状であるといえる。こうした動きの中では今後、ソフトのエンジン部分を提供することによるロイヤリティモデルなども同社から生まれてくる可能性が高いといえる。

 今回同社は「設計・製造ソリューション展」にブースを構えているが、併催される「第12回産業用バーチャルリアリティ展」、「第8回機械要素技術展」には大学など、設計・製造分野とは異なる幅広い客層が集まることになる。同社としては、設計・製造市場に重心を残しながら、将来の顧客となりうる層へ向けアピールを行うことが狙いにありそうだ。

 かつてのハードウェアに依存するようなビジネスを手がける状態から、社員の「知恵」を売る「ソリューション・インテグレーター」として活動する同社のブースに足を運んでみると新たな発見があるかもしれない。

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